50.真選組動乱篇5
「おいコラ、潮崎!てめぇ俺の腹踏み付けただろ···」

「あ、ごめんなさい。つい···」


無意識に踏み付けてたんです。だって橋渡しのような役割りのようなもんでしょ、そこにいるの···。


「まぁいい。総悟、俺が是が非でも勘定方にかけ合ってやる」

「そいつぁいいや。ついでに伊東の始末も頼みまさァ。俺ァちょいと疲れちまったもんで···」

「沖田さん···」

「つーことで、なると1発しけこんでくらァ···」

「え?」

「土方さん、少しでも後れをとったら俺がアンタを殺しますぜ」



え?なんか今しけこむって言ったよね?
冗談だよね?
あと突然シリアス展開に戻さないでよ!この人!ってか普通に沖田さんも土方さんのお腹の上に乗ってんですけど。絶対私や神楽が乗るより重いでしょ、沖田さんの方が···


「沖田さん、あの···」

「お、おめェもヤる気かィ?」


土方さんの上から退いて私の方へ戻ってきた沖田さんは、何故か直ぐに私を抱き締めた。つい先程、沖田さんへの恋心を自覚した私には大変心臓に悪い。


「こらぁ!クソサド!!なるを離すネ!」

「何言ってんでィ。最初に抱きついてきたのはこいつだわ」

「っ!ちょっ!」


神楽睨みながら抱き締める力強くしないで欲しい!


「沖田っ!私の反応みて楽しんでるんでしょ!」

「ありゃバレやした?」

「2人してイチャついてんじゃねぇ!!あとてめーらさっさと俺の上からどきやがれぇぇ!!」


土方さんの腹筋の上では神楽や近藤さんまでもが、代わり代わり喋る度に乗っていた。本当にただの橋だ。


そんな時、銀ちゃんがバイクに乗った攘夷志士によってパトカーから引き降ろされ、更には車輌と車輌の間に挟まっているパトカーが潰れそうになっている。近藤さんが最初に乗っていた車輌を操り潰そうとしているのは伊東さん。鈍い音と共に潰れ始めるパトカー。


土方さんは橋渡しの役割を終え、伊東さんとの闘いが始まろうとしていた時だった。
私たちが橋に差し掛かったとき、爆発が私たちを襲った。


「···なる!」


スローモーションで沖田さんが私の手を引いて自分の胸に留めたところで私は意識を手放した。




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「あの子よ、女の子なのに家督継いだって子」

「才能あると聞いたけど本当なのかしら?」

「···なる、なぜお前は剣を握る?」






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「なる!」

「お、沖田さん···」

「ボケっとしてんじゃねぇ!」


目を開けると目の前に沖田さんがいた。その後ろには、心配そうに私を見る神楽と新八くん。


「先生ェ!!」


ヤバい、全然現状が掴めない。爆発に巻き込まれたのは覚えてるはいるけど、その後は?


というか何で伊東さん味方だったはずの攘夷浪士に襲われてるの?裏切られた?


「わっ!」


立ち上がろうとしたらバランスが崩れた。よくよく見ればこの車輌は爆発に巻き込まれた橋に開いた穴に半分が傾いている。


バランスが崩れたところを助けてくれたのは神楽。


「なるも裏切り眼鏡助けるの手伝うヨロシ···」


伊東さんは爆発に巻き込まれてなのか左腕を無くしており、重力に逆らって落ちるところだった。そこを助けたのが近藤さん。その近藤さんを沖田さんが、そして新八くん、神楽の順で支えている。私も新八くんの足を掴んで引き上げるのを手伝う。



あー、そうだ。今考えることではないとは思うけど、伊東さんが人を見下すようにしてたのはきっと、私と根本的な状況が似ていたのかもしれない。私は頭は良くないけど、親族から嫌われていたし、妬まれていた。伊東さんもきっと···。私には、なんだかんだ味方がいたから今の自分がいる。でもきっと伊東さんは伊東さんのことをわかってくれるだろう人達がいたのに気づけなかった。今気付いたところで遅い話なんだけど。


敵の攻撃を土方さんが止め、伊東さんをなんとか救出したが、私たちを待っていたのは地上から車輌に入ってきた攘夷浪士達。


私も床に落ちていた刀を拾い構える。



「なるちゃん!?」

「近藤さん、私は大丈夫ですよ」


気遣ってくれた近藤さんに私は笑って返す。初めて人を斬った時からある程度覚悟は決めていた。1回斬ったならもう戻れないと···。人を斬ったなら、中途半端なことをしてはいけないと···。剣と共に生きるみんなに失礼になってしまうと···。


「なる、俺ァまだ剣術教えてねぇーぞ」

「隠してて申し訳ないんですけど、剣術習ってたんですよね」


遅いくる敵に対し、私は刀を振るう···。怖くないとは言いきれないけど、でも私だって居場所をくれた真選組を···近藤さんを守りたい!


狭い車輌の中、大振りは出来ないので、私は柄を短く持ち、コンパクトに刀を振るう。


そんな時、



「伏せろォォ!!」


土方さんの声で私達は床に伏せる。



「っぶ!」


床に伏せた私の上に私を庇うように上に覆い被さる沖田さん。勢い余って覆い被さったため、私は思いっきり顔面を強打した。鼻血出てないかな?


銃声はマシンガン。


あー、どうか弾が無くなるころには誰も撃たれてませんように。


連続で鳴る銃声が聞こえなくなった頃、顔を上げる。蔓延する煙の中、私たちに背を向けて立っている人物が1人···伊東さんだ。


真選組を潰そうとしていた人が、命懸けで真選組のトップ、2人を護った。


「第二波が!」


敵がマシンガンを再度構えるのが見えた私は、また攻撃が来ることを伝えようとしたら、敵のヘリコプターに攻撃した銀ちゃんが目に入った。


「すご···」

「銀ちゃんはいつだってすごいアル!」


1人でヘリコプター壊した。


「何をしている。ボヤボヤするな副長。指揮を···」


血塗れの伊東さんが土方さんへ声をかける。



「総員に告ぐぅ!敵の大将は討ち取った!最早敵は統率を失った烏合の衆!!一気にたたみかけろォ!」



真選組隊士たちが一斉に敵をなぎ倒していく。あ、歴史通り、伊東派が弾圧され、近藤さんの暗殺は免れた。けど···


「伊東さん···」

「潮崎君、君は僕を苦手と言ったな」

「はい。伊東さんは、寂しかったクセにそれを声に出さなかった。寂しい、認めて欲しいって自分を見て欲しいって誰にも言わなかった。昔の私に似てます。いや、今の自分もまだそうかもしれないですけどね、だから苦手です」

「君もそうだったのか···」

「はい。でも私にはずっと傍にいてくれた人達が居ます。ここでもそんな人達と出会いました」

「そうか···。君と早く出会っていれば、こんなことにならなかったのだろうか」

「早く出会っててもきっとこうなってましたよ、きっと」



私と伊東さんが謀反を謀る前に出会ってたとしても、伊東さんが近藤さんの暗殺を計画し、真選組を潰そうとはしていただろう。


私がこの世界にきても史実もこの世界の流れは変わらないだろう。でもそれでいい。私がこの人気漫画の流れを変えることは許されることではないのだから。


似ているからこそ好きになれない

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