episode:03










『日にち、間違えたな…』

曾祖父が。
豪炎寺修也が円堂守と出会ってからの歴史を調べた私は、彼がサッカー部に入部して馴染んで来た辺りで良いかなぁ、なんて予定を立てて居たんだけど。
何故か時間がズレたらしい。


『まさか同じ日に転校とか…』

珍しい名字だし、今日一日で噂の転校生「W豪炎寺」なんて呼ばれている。


『私あんなに目つき悪くないもん』
『悪かったな、目つき悪くて』
『態度最悪だし』
『…、』
『あの男の何が良いんだ?顔か?確かにイケメンだけど…て、あ?』

背中に冷や汗が伝う。
私、今誰かと…会話した?

『褒めるのか貶すのか、どちらかにして欲しいものだな』
『ひっひーじーちゃ…!?』
『…?』

言い切る前に、口を塞いだ。
あっぶな!
彼は怪訝そうな顔をした後、ふ、と優しく笑った。

『変なヤツ』

なんだ、そんな顔も出来るんじゃん。
思わず見とれて、我に返る。

落ち着いて名前!
この人は"曾祖父"!
言うなればご先祖様!
拝みこそすれ、胸をときめかせるなんて!


『…?』
『こんにちは豪炎寺君!サヨナラ豪炎寺君アディオス!』
『あ、おい…!』


走って逃げる。
なんで、逃げなきゃいけないのかわかんないけど、でも。

なんか、心臓…煩い。





『アリエナイアリエナイアリエナイアリエナ…』
『おっと、』
『ぶは、』

無我夢中で走ってたら、誰かとぶつかった。
弾かれて尻餅を付いた私に、慌てて謝りながら手をさしのべてくれる。


『悪い!大丈夫か?』

聞き慣れたその優しい声に、私はいつも通りに反応してしまった。

『もーっ!カノンのばかぁ!痛かったじゃんかぁぁ!』
『わ、悪い!…けど、俺はカノンって奴じゃ…』

手を取ると立ち上がらせてくれた彼はもちろんカノンではなく、彼の曾祖父円堂守。
顔そっくり、声もそっくり。
隔世遺伝って、すごい…!


『豪炎寺?』
『あ、えっと…』

私が戸惑っていたら、どうやら円堂さんは私ではなく私の後ろを見ている様で。
振り返ればそこには、もう一人の豪炎寺が居た。

『あ…』

そっちか。
なんか反応して恥ずかしいなと思いながら先ほど立ち上がらせてくれた温かい手を離すと、彼はいつもの無愛想な顔を更にしかめた。

『なぁ!豪炎寺!一緒にサッ』
『しない』

断るの早っ!
不機嫌なその人は、円堂さんと…何故か私を睨んで去っていった。
さっき逃げたの怒ってるの?
意外に心が狭いぜひぃおじいちゃん…。


『断られちゃったね』
『あ、あはは…はぁ、』

去っていく背中を見つめながら、円堂さんは苦笑いして最後にため息を吐いた。
そして今度は私を見て。

『豪炎寺、さん…は、サッカーとかしないよな?』
『…出来ないこともないけど…女子は試合出れないけど良いの…?』
『だよなー』

ガクン、円堂さんはうなだれる。
なんか可哀想になってきた…。


『豪炎寺君が入ったらマネージャーになろうかな』
『…ほんとか!?』
『マネージャーでも良いなら…』
『大歓迎だよ!今、木野しかマネージャー居ないしさ!』
『へぇ…』

ちらりと曾祖父の反応を伺う。
彼は少し歩いていた足を止めたが、そのまま行ってしまった。


『パパに似て頑固』
『え?』
『何でもない…』


違った。逆だわ。パパが似てるんだ。

いくら曾祖父とは言え、今は私と同じ14歳。




実感わかないなぁ。





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(前略、カノンへ)
(今日はカノンのひぃおじいちゃんに会いました)
(カノンみたいにすごく手が温かい人でした)

(名前)




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