海に降る雪 vol.1

空はいつも海を見てる
青く輝く海に焦がれて、でも近づけなくて
ただ、雲の隙間から見つめるだけ……
そんな空に誰かが言った
そんなに好きなら、傍に行けばいいんだよ

空は雪に姿を変えて、愛しい愛しい海の元へ
焦がれてやまない海の元へ降りていく


海に降る雪


教師の声がまるで催眠術のように睡魔を誘う。俺は、その誘惑に溺れまいと、気を紛らわせるために窓の外を見た。
窓の外では、チラチラと白いものが落ちている。それが雪だと認識するまでに少し時間がかかったのは、やはり教師から発せられる催眠術の効果なのか。
それでも、雪だと認識した途端に睡魔が綺麗に消えた事実に、俺は人知れず苦笑した。高校生にもなって、雪ごときでワクワクしてしまう自分の幼さに、呆れたからだ。

早く外、行きたいな。
頬杖をついた俺は、窓の外と時計を交互に見比べて。全ての授業が終わるやいなや、俺はダッシュで学校を後にした。
クラスメートに声を掛けられても、部活の仲間に見咎められても、俺の足は止まることを知らず。目的の場所についた頃には、俺の息はそうとう上がっていた。

ジャリジャリと音をたてて足を踏み入れたのは、学校から15分ほど走った先にある海岸。夏とは違い、誰も、本当に人っ子一人見当たらない砂浜に、俺は腰を下ろした。
海からの肌を切るような冷たい風にも怯むことなく、俺はただ海を眺める。
「……すげぇ」
ただ、その一言だった。静かに海に落ちていく雪。幻想的で、それでいて何故か少し切なくて。俺は小さな頃から、ここから見る雪が好きなのだ。
「風邪、ひいちゃうよ」
突然、横から声がして。声のしたほうを向くと、よく知った人物が隣に座っていた。
「あんたも来たんだ?」
そう尋ねると、小さく笑った彼は「だって、雪だしね」と言う。
「雪が降れば、必ずキミはここに来るから」
そう言って俺の頭を撫でる手は、もこもこの手袋に覆われていて。よくよく彼を見てみると、頭の先から足の先まで完全防寒で着膨れしている。小さな子供のようなその彼の姿は、これっぽっちも俺より年上には見えない。
「んなこと言ってさ、寒いんだろ先生?」
そう、このモコモコの正体は先生だ。と言っても、俺が中学生の時に通っていた塾の、だけど。
「寒くてたまらないけどね。でも、来たかったから」
そう言って微笑む彼の表情は、海に降る雪よりも綺麗だ。そんなこと、本人には言えないけれど。


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