海に降る雪 vol.2

「でも先生、震えまくりじゃん」
わざと呆れたフリをして、でも期待に胸は高鳴るばかりだ。
だって、それって。寒いのを我慢してでも、俺に会いたかったって聞こえるよ?ねぇ、先生の心の中に、ほんの少しでも俺が入れる隙間ってある?
「……ねぇ、先生。知ってた?雪は海に溶けて無くなるわけじゃないんだ。雪は、大好きだった海と、やっと一つになれたんだよ」
それは、幼いころ母に読んでもらった絵本の文章。幼い俺は雪のあまり降らない地域に住んでいたせいか、その絵本が大のお気に入りで。暇さえあれば、母にそれを読んでとせがんでいた。
「春も夏も秋も、ずっと雲の隙間からキラキラ輝く海を見てた。ただ、ひたすら見つめるだけ。それがいきなり雪になって海に押し掛けてさ、海は迷惑に思わなかったのかな……」
ねぇ、先生。俺はずっと、春も夏も秋も冬も。三年間ずっとあんたを見てたよ。今日の授業みたいに眠気と闘わなきゃいけない日は一度もなかった。それどころか、一分一秒さえも惜しくて、ずっと先生だけを見てたんだ。

……あんたをただひたすら、見つめるだけの存在。
そんな奴から、いきなり好きだと言われたら、好きだからずっと一緒に居てと言われたら、迷惑じゃないのかな。海は勝手に自分の中に溶けてくる雪を、身勝手だと感じないのかな。
「どうだろうね。本当に迷惑なら、海だって拒むんじゃないのかな」
だから、海は嬉しかったんだと思うよと、先生が笑うから。だから、期待してしまう。ただ絵本の話をしているだけなのに、変に期待を膨らませてしまうんだ。だって、ねぇ、どうして先生はここに。俺の隣に来てくれてるの?
「先生、好きだよ」
ぽつり、言葉が口から洩れる。白い息とともに溢れた想いは、空に吸い込まれるように消えた。
あぁ、俺の今の想いも、水蒸気となって雲になって、そのうち雪となるのだろうか。そっと掌をひろげると、冷たい雪が掌に触れた途端に、溶けて消えた。口から洩れてしまった告白も、こんな風に溶けて消えればいいのに。
心臓が痛い。先生が、どんな顔をしているのか分からない。やっぱり、迷惑だったかな……。
勇気を振り絞り顔を上げると、そこには予想に反して真っ赤な顔で呆然としている先生がいた。
「先生?」
彼の反応が理解できなくて、先生の目を見つめると、彼の瞳にみるみる涙が溜まっていく。
「……信じられない。ずっと見つめてたのは、ぼくのほうだったのに……」
そう言って笑う彼は、とても綺麗で。
そうだったのか。ずっと見つめてたのは、海も一緒だったんだ。海も、いつも空を見つめてたんだね。
雪と海が一つになるように、俺は強く彼の身体を抱き締めた。


★あとがき★
当たり前ですけど、作中に出てくる絵本は実在しません。雪に焦がれてやまないのに、私の住んでるところにはほとんど降ってくれないから悲しい……


2010/11/14


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