小説 | ナノ
クリスマスはサンタと一緒に 06


「……だから、サンタは本当にいるんだって!」

「あー、はいはい」

クリスマスにリア充を満喫していた友達は、テーブルを挟んで座る俺の熱弁を実にあっさりと聞き流した。テーブル手前の椅子、いつものこいつの特等席に腰掛けながら頬杖をつく。


結局あの後、ただひたすらに互いの身体を求め合って。行為を終えたのは朝方だったんじゃないかと思う。二人で気を失うようにして眠りに就いた。

俺が目を覚ましたとき、ルタの姿は既になかった。切ないクリスマスのあまり俺が作り出した幻だったのかとさえ、一瞬考えた。
でも、冷蔵庫に入れられてきっかり半分なくなったケーキと。そこに添えられた「お代としてケーキ、頂きました。ありがとう、恭也。またな」とだけ書かれたメッセージカード。
名前なんてなくても、差出人が誰なのかは直ぐに分かる。それらが確かに、昨日のことは現実なのだと示していた。


まさかサンタが本当にいたなんて。それはもう感動してしまって、クリスマスを終えた26日になってからリア充もとい猛を家に呼び出した。
サンタと会ってからの出来事を、さすがに行為になだれ込んでしまったことは伏せつつ熱弁したけれど。眼前の彼は明るい茶色に染めた髪を指先で弄ぶだけ。

「サンタ……サンタ、なぁ……」

その目に浮かんだ感情は何なのか、俺には分からなかった。ただ、考え込むような暫しの沈黙の後で猛はゆるりと話し始めた。

「サンタだって商売だっつったんだろ?でもそんなのせいぜい冬限定の仕事じゃねぇか。他の季節はどうしてるんだよ?」

「うっ……」

正論過ぎて何も言い返せなかった。確かにどうしているんだろうか。その辺り、しっかりとルタに聞いておけば良かった。次に会ったときには聞いてみよう、と思考を回したところではたと思い当たる。

……来年も会える保証なんて、どこにある?そんなものは、どこにもなかった。ルタに会う機会があったのはあれっきりだった可能性もある。……そう、もしかしたらもう一生、ルタには会えないかもしれない。
全くそこまで考えが回らなかった。あんなに優しかったルタに、お礼さえも言っていないのに。

急に黙り込んで深刻な顔をした俺を見て、自分の言葉で傷付けたと思ったらしい。ごめん、と猛に小さく謝られた。
はっとして顔を上げると、彼は自分の頭をがしがしと掻きながら大きな溜め息を吐いた。

「……ごめん」

もう一度だけぽつりと呟いて。猛はテーブルへと視線を落とした。

「恭也の言ってること、信じてないわけじゃねぇよ。……でも、そのルタっつーサンタに。ちょっと、嫉妬した」

……嫉妬?なんで?
そんな疑問を持つ俺をよそに、彼はふと身を乗り出してきた。俺を励ますかのように、男前な顔をくしゃくしゃにして笑う。

「サンタっつーのも普段は一般人に紛れて日常生活送っててさ。社会人とか主夫とか……学生とか?そんなんやってて、案外お前の近くにいたりしてな」

腕が伸びてきたかと思うと、頭の上に大きな手を置かれた。左右にゆっくりと手を動かして撫で始める。
猛に頭を撫でられるなんて初めてだったけれど、不思議と全く嫌じゃなかった。それどころか、その暖かさはとても心地好くて。

「だからさ、きっとまた会えるって。いや、もしかしたら……」

猛はそれ以上言葉を続けなかったけれど。素直に俺の身体へと染み渡っていくその優しい声と口調に、覚えがある気がした。
猛が動いたことでふわりと漂ってきた、甘く柔らかいトワレの香り。それが、やけに印象に残った。

 |  

人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -