小説 | ナノ
生徒会長の受難 02



「くそっ、離せ……!」

三人いる奴らのうち二人が横に回って俺の腕を押さえた。いくら力を込めても相手の両腕を使って押さえ付けられては勝ち目がなく、むしろ暴れる程に身動きが取れなくなっていく。そして浮かぶのは、焦燥感。思わず大きな声を上げても正面の男が動じた様子はない。

「言われて離すくらいだったら最初っからやってねぇしなー」

へらへらと軽薄な笑みを広げて余裕の空気を漂わせるその態度が癪に触る。男は俺の顔へと手を伸ばした。頬に掌を当てながら未だ濡れたままの俺の下唇に親指を乗せる。そして唇を端から端までなぞっていく。

ゆっくり、ゆっくりと。まるで何かを呼び起こそうとするかのような動きでなぞられて、身体の奥で不意に何かが揺らめいたのが分かった。

「さっさと諦めちゃって、こっちの心配した方が良いんじゃねぇの?」

言葉を続けたのは左側の男。腕を戒める力は全く緩めないままで耳へと細く長い息を吹き込んできた。その妙に熱い吐息に首筋の皮膚がざわざわと粟立つ。何とか逃れたくて身を捩るが、後ろにあるのは壁ばかりで。

「何を、するつもりだ」

「何って……そりゃあ、こーゆーコト?」

押し殺した声での質問に答えたのは右側の男。耳朶を甘く噛まれ、そのまま唇で柔らかく挟んで左右に動かされる。そんな場所を唇で転がすように弄ばれるのは初めてで、擽ったさと……それとは別の、何かが蓄積されていく。

(気持ち悪い)

そう思うのに。ゆらゆらと、身体の芯でくすぶり始めるこの感情の名は。言葉にしてしまうのが恐ろしくて、再び正面の男を睨み付けた。
しかし彼は楽しげな笑みを深めて、頬に当てていた手を少しずつ下ろしてきた。人差し指で辿るように、頬、首筋、鎖骨のラインをなぞっていく。その動きは相変わらず非常に緩やかなもので、無意識のうちに鳥肌が立つのを止められない。

こいつらが何をするつもりなのか、ようやく思考が追い付いてきた。そうなのだ、先程からの彼らといったら――

(まるで、性感を高まらせるための愛撫をしているような)

そんな動きだ。一体男同士でどうしようと言うのか、そこまでは分からない。しかし一度そこに思い当たってしまうと、それまでと全く性質の違う焦燥感に駆られた。まさか男性からそうした対象に見られるとは、今まで欠片も考えたことがなかった。

再度の必死な抵抗を始める俺を見て何を思ったのか。正面の男が鮮やかな色の髪をかき上げながら大袈裟な溜め息を吐いた。

「だからさっさと諦めろって言ってんのに。大人しくしてればちゃんとキモチ良くさせてあげるからさあ」

いつの間に抜き取っていたのか、締めていたはずの俺のネクタイは彼の手中にあった。それを指で弄び、三人は意味ありげな目配せを交わす。
そこから先は一瞬だった。突然背中を押されて身体が少しだけ壁から離れたかと思えば、俺の両腕が後ろへと回された。そして手首を素早くネクタイで結ばれる。その拘束に気付いたときにはもう遅かった。

左右に回してみても、力一杯引っ張ってみても。後ろ手のきつい拘束が緩む気配は、全くない。どういう結び方をしたのか定かではないが、特殊な方法でなければ解けないのは確かなようだ。いくら暴れても腕の痛みが増すのみで、悔しさのあまり唇を噛む。

(生徒会長たる者全校生徒の手本となるべきだと、いつだって緩めずに締めていたネクタイ)

それが今は己を戒める拘束具になっているという、皮肉と屈辱。


対して二人の男は俺を押さえ付ける任務から解放されたためか、晴れ晴れした表情さえ浮かべていて。更に強く唇を噛むと、

「っ……!」

突然、ワイシャツの上から胸を擦られた。いや、正確に言うならば……乳首、だろうか。胸を突き出すかのような今の格好では逃れようがなく、与えられる刺激をただ甘受するしかない。

「せっかくのキレイな唇なんだから。そんな強く噛んで血でも出たらどうすんのー?」

顔を覗き込むようにして話し掛けながらも、男の動きは止まらない。すぐにその場所を探り当てると、服の上から爪を軽く引っ掛けるようにして胸を弄ってきた。何度もそこでゆっくりと指を往復させる。

「はっ……あ、っ、離せ……!」

呼吸が上手く出来ない。口を開くと共に漏れてしまった息をもう一度吸ってから、全力で抗議した。しかし彼はそこを強く指の腹で押し潰したり弱く爪を滑らせたりと、触り方を変化させながら興味深げに呟いた。

「ふーん……会長サンって、意外と敏感?」

「違……っ!」

上がった口角から、そっちの意味で聞かれてるのだとはすぐに分かった。否定しようと声を発したが続きを言うことはできなかった。男が親指と人差し指でそれを挟んだかと思うと、ぐにぐにと好き勝手に弄り始めたからだ。

「……っ、く、ん……!」

彼は飽きずに指を動かし続ける。まるで擦り合わせるかのようなその微妙な刺激が脳に伝わり、じわじわと熱が高まっていく。
少しでもその手から離れたくて必死に身を引いた。これは、この感覚は。これ以上は。そんな中、不意に爪でピンと強くその場所が弾かれた。

「ああっ……!」

背筋を電気が走ったような気がした。身体を反らしながら高い声を上げてしまい、慌てて口をつぐむ。

(何だ、今の……)

たった今、自分が発したばかりの声に耳を疑った。それは言葉に当て嵌めるならば、きっと……嬌声という表現が、的確なもので。そんな声を、俺が出してしまうなんて。とても信じられなかった。

「ほら、やっぱり敏感だって」

そう勝ち誇ったように言う眼前の彼に何も言い返すことができず。ただ、腹立たしい想いで見つめていた。

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