嶋野のお嬢 | ナノ

  渦の中もがく男




「レン、絶対桐生さんとこ行くなよ。嶋野の親父から命令受けとる」


桐生さんが堂島組長を殺害したと聞き、拘置場へ向かおうと思った瞬間に言われた一言。さすが組長。やること早いなぁ。この件に関して触れるなと言うことやろなぁ。桐生さんが親殺しなんて信じられへんけれど。

中地さんと韓来で焼肉を食べながら、いつも通りの日常を過ごしている。ただいつもより口数は少ない。トングで焼けたお肉を中地さんの皿へ入れる。


「なぁ、ほんまに桐生さんがやったんかな。中地さんどう思う?」

「…わからん。でも現行犯逮捕なんやろ?あの日錦山の兄貴が由美さん拐われたって焦っとったし」

「せやなぁ…でも首突っ込みすぎたら組長に怒られるわ」

「やめときや。俺らが損すんで」

「なんか、引っかかるもんがあるけど。…大吾くんも心配やな」


いつもやったら賑やかに食事を楽しむけど、今日は話題が話題やから全く盛り上がらん。それに中地さんのビールも全然進んでへん。もう食べる気しぃひんな。焼いているお肉もないし。


「あいつ今めっちゃ荒れとるらしいわ。毎日神室町で飲み歩いとるらしいし…ってどこ行くん!?」

「ごめん!ちょっと大吾くん探してくるわ。お金足らんかったらまた教えて!」

「ちょ、真島の兄貴に怒られるって…!おれが!!」


テーブルにお金を置いて、韓来を去る。中地さんが困っていたようやけど、大吾くん心配やしな。真島さんに報告よろしく。足早に上着を着ながら、大吾くんのいそうなところへ走った。


________________________



「大吾くん、見いつけた。やっぱりここにおった」



キャバクラのサンシャインにて。柄の悪い取り巻きたちと綺麗な女の子の肩に手を置いている大吾くん。いつもやったらあんまり酔ってへんけど、今日の大吾くんは酔ってる。目が据わってる。あかん酔い方してるなぁ。お酒もアルコール度数高いやつ頼んどるし。キャバクラの女の子にごめんな、と席を詰めてもらい、大吾くんの横へ座った。


「なんだよ、レン…楽しく飲んでんのに邪魔しに来たのか」

「あーあ、大吾くんは可愛い後輩にそんな冷たい事言うん?悲しいなぁ」

「チッ…ならお前も酒飲めよ。おい、こいつのグラスも」

「やっぱり大吾くん優しい!一緒に飲も」


キャバクラのお姉さんは、いきなり入ってきた私に戸惑いながら、グラスにお酒を注いでくれた。ただ大吾くんの連れに睨まれているが。それはそうか。いきなり入ってきて、自分のリーダーである大吾くんに対して、失礼極まりないから。


「大吾さん、こいつ外にやりましょうか?」

「いいんだ、こいつは。俺の可愛い後輩だ。こんなヤツでも一応ヤクザの端くれだから、お前も睨むな」

「どうも、嶋野レンです。お兄さんもお姉さんも、なんか困った事あったら相談してきてくださいね」

「ええ、ヤクザなの!?意外…!何かあったらレンちゃんに頼もうかしら」

「やめとけ。こいつに頼んだら、金と命がいくらあっても足りねェよ」

「そんな事ないで。ただ頼み事にもよるけど…」


私は狡賢いヤクザやから、お金に変えれるもんはとことん変えるだけ。その分組にお金が潤って、好きに遊べるというもん。真島さんと遊ぶ為やったら、何でもやったる。…桐生さんおらんくなったから、真島さん寂しいやろなぁ。いっぱい相手してあげよう。私で足りるかわからんけど。

そんな考え事をしながら、シャンパンを飲む。すると、大吾くんが肩に手を回してきて、じっと見つめてきた。高校時代いつも遊んできた大吾くんの顔をこんな近くで見るなんて初めて。距離10センチ。少しお酒臭い。


「大吾くん、大丈夫?ちょっと酔いすぎやで」

「…なんで来たんだよ」

「心配やからに決まってるやん。毎日飲み歩いてるらしいし」

「…うるせぇ。お前に関係ねぇだろ」

「仲良い友達の心配したらあかんの?…桐生さん慕ってた大吾くんが心配で「うるせぇっつってんだろ!!!」


その一言に激昂した大吾くんはテーブルを蹴り上げ、立って私を見下す。周りの人らの目線もどうでもいいのか、大声で罵ってくる。ああ、店で喋ったんが間違いやった。キャバクラのお姉さんにごめんな、と手を合わせて、財布からお金を出して握らせた。ボーイもやってくるが、大吾くんの手を引っ張り、店の外へと向かう。取り巻きくんたちよ、後処理頼んだで。

大吾くんは離せ、と抵抗してくるも、掴んだ手は離さない。一旦落ち着けや、と思い睨むと抵抗しなくなった。酔ってても冷静なとこあってよかった。

そのまま公園へ向かい、大吾くんをベンチに座らせる。その隣に私も座る。


「大吾くん、寒くない?あったかい飲み物買ってこよか」

「別にいい。…お前の分買ってこいよ」

「ありがとう、そこの自販機で買ってくるわ」


大吾くんが財布からお札を1枚抜き、渡してくれる。公園の近くにあった自販機でカフェオレを買い、大吾くんにお釣りとカフェオレを渡した。季節は冬、缶の暖かさで暖をとる。無言が少し続いた。何から話せばええんやろ。


「…さっきは怒鳴って悪かったな」

「いや、私も不躾なこと言うた。ごめんな。でもほんまに大吾くんの事心配してる」

「フッ、お前は変わんねぇな…」

「大吾くんも、相変わらず人望あるよなぁ。取り巻きくんに睨まれたし」

「あいつらが勝手についてくるだけだ」

「女遊びも大概にしいや。大吾くん毎回連れてる女ちゃうねんから!私みたいに一途になったらええのに」

「いい女がいたら、そうなる予定だ。お前が一途すぎるんだよ」


寒さで酔いが覚めてきたのか、いつもの大吾くんになってきた。目が据わった大吾くんなんて、あんまり見んから珍しかったけど。大きな手で頭を撫でてくる。自分の尊敬していた人が父親を殺したんやもん。同時に2人も失ったもんな。自分に置き換えたら、荒れるに決まっている。受け入れられんに決まっている。なんて声をかけていいかわからんから、心配してる、しか言われへん。


「大吾くん、私に出来ることあるんやったら言うてな。憂さ晴らししたいんなら、お酒も付き合うし、遊びたいなら、とことん遊ぶし!高校の時みたいに、朝までカラオケでもええし、クラブ行くんもええし…っ、大吾くん?」


いきなり抱き締められた。急でどうしていいか、わからん。すっぽりと大吾くんの腕の中に収まっている。ああ、真島さんに怒られへんかな、弱ってるし仕方ないよな。大吾くんの背中に腕を回し、背中をさする。すると、抱き締める力が強くなった。…大吾くんって今彼女おらんかったっけ。人肌恋しいっちゅうやつちゃう。ここで拒否したら、余計荒れるやつかなぁ、なんて頭で考える。でも流されてやってもうたら、真島さんに捨てられるかもしらん。それだけは嫌や。


「大吾くん、っ…!」


首筋に唇を当てられ、思わず身体がびくりと反応してしまった。啄まれると、身体が反応してしまう。身体を捩って逃げようとするも、力強くて逃げられん。あかんあかん、大吾くん、私らはそんな関係なったらあかんねん。大事な友達や。逃げなあかんのわかってるけど、傷心の人を拒否してええもんなのか。


「もう帰ろ?今日はゆっくり休んで「帰りたくねぇ」…」


…甘えてくる大型犬に見えてきた。頭をよしよしと撫でてみる。ああ、真島さん、どうしたらええ。絶対一線は越えられへんし、そもそも大吾くんとは越えたくないし。やってしもたら、もう2度と友達には戻れんくなる。今回だけとか言うて許せるほど、私の貞操観念は緩くない。逆の立場で真島さんが慰める為に女抱くとか嫌やもん。人にされて嫌なことはしいへん。それは決めてる。ていうか、そもそも一時の慰めで身体重ねてもうたら、虚しくならんか。それでもええ、っていうもんなんかな。


「レン」


ああ、耳元で名前囁かんといて。大吾くんも私が拒否できんってわかってるから、狡い男やわ。腰に手を回されて距離がもっと近くなる。大吾くんやったらいくらでも女おるやろ。私やなくってもいいんちゃう。頬に手を添えられ、見つめられる。大吾くんの熱っぽい目から逸されへん。こんなん今まで見たことない。女として求められている。


「レン、」

「あかんで、大吾くん。一時の感情でこれまでの関係崩したない、っ、」

「はぁ、ほんま心配させる子やなぁレンって」


いきなり剥がされ、いつもの匂いにいっぱいになる。片手で抱き寄せられて、ジャケットの下は素肌で寒そうだが、少し汗が滲んでいた。この匂いは…!


「真島さん!」

「ほんま、親父と似てないのう…お人好しすぎるわ、このバカチン!!」

「うう…」


真島さんの腕の中で怒られるも、ほんまに助かったとほっとしている自分もいる。大吾くんとそんな関係になりたくなかったから。大吾くんの顔が見れへん。真島さんに甘えさせてもらおう。


「大吾、お前人の女に何してんねん。色々あって大変なんわかるが…レンを使うなや。お前を心配して、探しとったのに、己の弱さにこいつ巻き込むな。こいつのお人好し具合わかっとるやろが」

「…すみません。頭冷やしてきます。…レン、悪い。拒否しねぇお前に甘えた」

「許さんわボケ。レンも口聞いたあかん。さっさと行け、しばらくレンに近寄んなや」


真島さんに抱き締められていたおかげで何も見えなかったが、立ち去る足音だけ聞こえた。これでいいやんな。真島さんをぎゅっと抱き締める。こんな寒いのに汗出てるってことは、探し回ってくれたんや。


「ごめんなさい…」

「アホ。…何もされてへんやろな」

「抱き締められただけ。…真島さん、慰めるって難しいなぁ。真島さんやったら何でもしてあげようってなるけど、友達やったら声かけるくらいしかできひんもん」

「だけちゃうわ、されとるわ。…男と女っちゅうもんもあるで。何も考えずに女抱いて紛らわせたいんやろ。レンも早く逃げろや」

「余計に傷つけてまうかなと思って…」

「ほんま身内には甘々やのう。まぁ拒否できてたんは褒めたろ」

「真島さんが同じことしてたら嫌やからなぁ。真島さんも優しいし。いつも助けてくれてありがとう。大好き。心配かけてごめんな」

「…素直な子やなぁ、ほんま可愛いわ」


やっぱり真島さんの腕の中が1番落ち着く。軽く頬に唇を寄せると、お返しとばかりに唇を重ねられた。段々重ねる時間が長くなってくる。真島さんヤキモチ妬いたら、後が大変なんよな、と思ってたら一言。


「帰ったらわかってるやろな」



勿論です。




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