▽ 「想いの視線はきみ向き」
「…………あれは、伊達政宗」
「…………」
走り抜けると、開けた土地に出た。
いつの間に。
気がつくと隣に立っていたきた村は、ぽそりと呟いた。
「…………知り合いか?」
「知識だけなら、まあ」
「知識?」
謎は増すばかりである。
が。
「貴様は下がっていろ」
「はーい」
ぼんやりと返事をすると、きた村英梨は近くの岩陰にてけてけと向かった。
小柄な女だから完全に隠れられているようだ。
さて。
「…………」
名などどうでもいい。
秀吉様に仇なす者は誰であれ、斬滅するのみ。
「…………きた村英梨、か」
何処か懐かしいような雰囲気を纏う女だと思った。
家康。
家康なら、何か気付くことがあるかもしれない。
俺が会ったことのあるヤツなら、あいつも知っているかもしれないなと、思った。
- - -
石田三成は強かった。
「…………うわぁ」
こちらがドン引きするレベルで圧倒的な実力差だった。
私は、伊達政宗は天下に1番近いと思っていたが、どうやらそれは買いかぶりすぎだったらしい。
ため息をついた直後、悲鳴が聞こえた。
「…………秀吉様?」
三成が呟いた。彼が言うなら間違いなく、豊臣秀吉の声なのだろう。
「三成さん!」
思わず岩陰から飛び出し、三成の元へ駆け寄ると、彼は視線をウロウロと彷徨わせていた。
らしくない。
「三成さん!」
肩を掴んでもう一度呼びかけると、ハッとしてこちらに視線が合った。
「…………英梨」
「秀吉様のところへ行きましょう、三成さん!」
「…………ああ」
少し、元に戻ったようだ。
三成は秀吉様秀吉様と叫びながら、走り出した。
私はそれを見届け、無様な伊達政宗及びその配下を振り返った。
「…………歴史の改変は、趣味じゃないが」
少しだけ、傷の回復速度を上げてやる。
意味はない。
強いて言えば、物陰から見ている忍に私は異常であると認識させることか。
「…………ふん」
さて、三成は何処かな。
先ほどドサクサに紛れて名前で呼ばれてしまったことを思い出して、笑みが零れる。
三成は可愛いな、ほんとうに。
昔は、カッコよく見えたものだけれど。
私も三成を追った。
- - -
「あっは、あれはバレてたってことかなぁ」
露骨な怪奇現象に、猿飛佐助は苦笑した。
ほとんど同化していた木から少し身を乗り出し、天を仰ぐ。
「…………きた村英梨ちゃん、かぁ」
すげえ可愛いかったなぁと、仕事を忘れた彼の呟きは夜空へ消えた。