口と財布は締めるが得(5/5)


ふ、と思い至ってクロームさんのお見舞いに行こうと思った時だ。クロームさんの容体が急変した。ビアンキさんとジャンニーニさんがどうにかしようと試みるが、やれることが何もない。

腹部がへこんでいる。すなわち内臓が、ない。いくら設備がよかろうと、これでは何の処置も行えない。
リボーン先生が言うには、クロームさんの内臓は骸くんによる強力な幻術により作り上げられたものらしい。流石骸くん。幻術で生命維持さえ出来てしまうとは。けどその骸くんの幻術の効果が切れた。骸くんに何かあったとしか思えない。何をやっているのか、彼は。

うわごとで骸くんの名前を繰り返す彼女の姿は、見ていて痛々しい。ボンゴレ10代目がクロームさんの名前を必死に呼び掛けるが、彼女は息を荒げるだけだ。


「私の幻覚で苦痛を和らげさせます」
「え!?稲葉さんって幻術使えたの!?」


とは言っても、私の幻術など微弱なもの。延命治療にすらならない。そして今はボンゴレ10代目の問いに答える暇などない。クロームさんの額に手を当てて、痛みを取り除くイメージを送る。


「邪魔だよ」
「雲雀さん!」


ボンゴレ10代目を押し退けて風紀委員長が病室に入って来た。否、今は風紀委員長でないので雲雀さんと呼ぶべきだろう。


雲雀さんにより、この場にはクロームさん、私、雲雀さんを残して全員退出した。イメージを送り続ける私の隣で、雲雀さんはリングの力を引き出すことでクロームさんは生き続けられると彼女に説く。グロ・キシニアとの戦闘の時と同じだ。死ぬ気の炎を使った幻術は強力。それを使うつもりなのだろう。

クロームさん自身の力で、へこんだ腹部は膨らみを取り戻した。けれどまだ不完全な幻術。生命維持をするだけでいっぱいいっぱいだろう。


なぜ、私は金を受け取ってもいないのにクロームさんを助けるような真似をしたのだろう。一緒に戦った相手だからと、情でも湧いたのか。あの甘いボンゴレ10代目に感化されたのか。


「雲雀さん」
「何だい」
「これから私は何をすればいいのか、教えて下さると有難いです」


そう言って立ち上がり、クロームさんの鞄を雲雀さんに差し出した。


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