行き掛けの駄賃(2/4)


あの場から逃げたものの、どこに隠れたらよいものか。さっきの雨フクロウの攻撃により、意識を失いかけているクロームさんを横抱きにして黒曜ランド内を走り回った。「あっち」とクロームさんが指し示す方向へと走る。

辿り着いた部屋は外に繋がる入口等はない。こんなところに何を、と思っていると、クロームさんは隠し通路を開いた。「入って」と促されるままに通路内に入り、扉を閉める。


意識を失いかけている彼女を横目に、上着のポケットに手を入れた。チャラチャラとポケットの中のリングが音を鳴らした。グロ・キシニアに勝つには死ぬ気の炎を使うしかない。一か八か。リングの1つのマモンチェーンを解いて、右手にはめた。


「もう逃げ回らないのか?クローム・髑髏。稲葉アル」


扉が開いた。もう見つかってしまった。逃げましょう、そう言う前にクロームさんが先に動いた。


「骸様!どこ!?」
「クロームさん!」
「良い声だ。だが骸は来ないぞ。来られればとっくにお前の体に実体化している」


悔しいながらグロの言う通り。慌ててクロームさんの後を追った。階段の下は倉庫になっていた。ここにいるはずのない骸くんの姿を彼女は声を上げて探す。

ふ、と彼女が振り返って目を見開いた。視線の先を追って、私も振り返る。クロームさんはグロ・キシニアの匣兵器、雨フクロウをじっと見つめている。
雨フクロウの目に変化が起こった。オッドアイの片目に、六の数字が現れる。


「ムク、ロウ?」


恍惚とした表情を浮かべて、クロームさんは雨フクロウを見つめ続けた。雨の青い炎が、霧の藍の炎に変わる。その変化を認めると、フクロウはグロ・キシニアを襲った。


「アル!上へ!」


クロームさんに腕を引かれて、階段を駆け上がる。

匣兵器にまで憑依してしまう六道骸の力。流石ボンゴレの霧の守護者を務めているだけはある。でも匣に憑依なんて、やっぱり骸くんは変わっている。


傍らで息を整えているクロームさんは骸くんと会話をしている様子。二人の会話を、私は聞き取れないが、私達がこの場で、あの変態男を倒すように言われているようだ。それを認めている間に、クロームさんのボンゴレリングに纏わりついていた蜜のような封印が溶けていった。私もリボルバーを懐に仕舞い、素早く銃剣を組み立てる。


雨フクロウが視界を過ぎて行った。「骸様!」とクロームが壁に衝突した雨フクロウに駆け寄り、抱き寄せる。


ドスン、と地響きの音がした。何の音か。グロ・キシニアが「教えてやろう」と語り始めた。
6弔花のホワイトスペル3名には、ボスからメイン匣とサブ匣を与えられているらしい。雨フクロウはそのサブ匣。


「私の真の力はこのメイン匣、雨巨大イカにある!」


グロ・キシニアの背後から、巨大なイカの足が勢いよく飛び出した。うわグロい。口に出さなかった分マシだ。

骸くんと話を終えたクロームさんが、ボンゴレリングに藍の炎を灯した。三叉槍を振り回し、幾つもの火柱の幻覚を発生させる。前のものよりもリアリティーがある。「凄い」クロームさんが呟いた通りだ。ボンゴレリングの力とはなんと強大なのか。


「だが所詮はまやかし。笑わせる!」
「効か、ない…」


火柱の中からグロ・キシニアが何事もなく歩いてきた。意味を無くした火柱は消えてしまった。「ヒッ」とまたグロ・キシニアが笑った。


「幻覚など私には通用しない。無駄、無駄、無駄なのだ!」
「そんなことは、やってみないとわかりません…ッ」


雨フクロウに憑依しているとは言え、今のクロームさんには骸くんがついている。ボンゴレリングもある。まだ勝敗はわからないのだ。

雨フクロウ、骸くんと同調して幻覚を作り出すクロームさんに向かってくる雨巨大イカの炎を纏った足を銃剣で防ぐ。私には攻撃の軌道を逸らすぐらいしか出来ない。けれど、攻撃を防いだのは私一人ではなかった。


「やはり、おまえの最も信じるものも、これなのですね」


涙ながらにクロームさんは頷いた。

ここに来る前、精神世界で聞いた声が、目の前でした。それ以外の二人の声もまた。今までこの場にいなかった六道骸に城島犬、柿本千種が目の前にはいた。


幻覚ではあるが、雨巨大イカに傷はついている。これはただの幻術ではない。有幻覚。実体のある幻覚だ、と骸くんは言った。


「クロームを守ってくださり、感謝しますよ。アル」
「報酬はたんまりと頂きますからね、骸くん」


<<< >>>

back




×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -