▼挨拶より円札(2/3)
ヴァリアーの皆様がいる病室から半分逃げるように逃げ出し、指定された部屋へと向かった。ノックを3回。失礼します、と断りを入れて扉を開いた。
「久しぶりだね、アルちゃん」 「はい、お久しぶりです。ボンゴレ9代目」
ペコリ、とお辞儀をして挨拶をした。あのゴーラ・モスカから出てきた時より回復したようだ。あの痛々しい傷が目に入ったから、そこからだけ目を逸らす。目の前の穏和なご老人、ボンゴレボス9代目はそっと目を細めた。
「まさかこんな形で再会するなんて思いもよらなかったよ」 「それは私も。私がヴァリアーに入ったのはたまたまのことですから」 「…今もまだお金に執着しているのかな?」 「ええ」
それはもう当然のことだ。組織の連帯感だの信頼感などの思いは抱いていない。私の目的はどこまで行っても金だからだ。だから近いうちにここから去ることになっても不思議はない。「そうかい」9代目はそう言った。何だか悲しみを含んだような物言いであるところに、私は特に突っ込まない。
「君は今も、形だけでもヴァリアーに、ボンゴレに所属していたね」 「…ええ、一応」
「そうか」9代目はまた、そう同じように呟いた。そして少し考え込んだうえで、9代目は口を開いた。
「君に勅命を下す。引き続きヴァリアーに所属し、雲の幹部としてザンザスの補佐をしてくれ」 「……は?いえ、あの…」 「そこで君も、ザンザスも、大切な何かを見つけられるだろう」
9代目の瞳は私の心を覗いているようだった。何もかも見通しているようだった。これが超直感、というものなのだろうか。意味深な笑顔がやけに怪しい。この人のこの笑顔は昔から変わらないようだ。
超直感、なんて大仰に言っても所詮は直感なのだから信じたくはないし、従いたくはないが、言う通りに行動してみるのもいいかもしれない。決してちらつかされた小切手の金額に目を奪われたから、などと言うことはない。
「おお、そうだ!綱吉くんのところにも挨拶に行ってくれないか?」 「な、なぜ私が…いえ、行きます。行かせてもらいます。是非とも」
だから小切手をちらつかされたせいではない、と。
<<< >>>
back
|