同情するなら金をくれ(2/3)


ザンザス様との戦いの中で、沢田くんは零地点突破を習得した。怒りに駆られたザンザス様の古傷が蘇るだの、ザンザス様が凍らされただの、リングの力により氷を解かしただの。実に様々なことがあった。全てリストバンドのモニターを通じて見たもの。

そして、ボンゴレリングがザンザス様を拒んだ。


「いい気味だとでも、思って…やがるか…」
「いいえ」


はっきりと私は即答した。答えに迷いはない。傷を労わるために、そっと体を支える。自暴自棄になったザンザス様は沢田くんに吐き捨てた。


「オレと9代目は、本当の親子なんかじゃねぇ!」


9代目の実子として持ち上げられていたザンザス様であるが、事実は違った。
私の全てはお金。私を動かせる唯一のものは権威や血などではなく、金だ。依頼料を与えられた以上、私はこの人の下僕。私にとっては仕える主人の血統なんてどうでもよいこと。けれどリングはそれを認めなかった。


モニターから、死んだはずのスクアーロ様の声がした。ザンザス様の怒りがわかる。何かを知っていると言う。


ザンザス様は憤怒の炎を生まれながらにして扱えた。その炎を見たザンザス様の母親が妄想に取りつかれ、9代目の子供だと主張した。そしてそれを憐れに思った9代目がザンザス様を養子に引き取った。これら全てを知ったザンザス様はクーデター『ゆりかご』を引き起こすこととなる。これが事の真相だ。


「9代目が裏切られてもお前を殺さなかったのは、最後までお前を受け入れようとしてたからじゃないのか?9代目は血も起きても関係なく誰よりもお前を認めていたはずだよ。9代目はお前のことを本当の子供のように…」
「っるせぇ!!気色の悪い無償の愛などくその役にも立つか!俺が欲しいのはボスの座だけだ!カスは俺を崇めてりゃあいい!!俺を讃えてればいいんだ!!」


愛は金にならない。ザンザス様の、マーモン様の言う通り。役に立つのは欲望。ザンザス様は野望。私はお金。


「ザンザス様!貴方にリングが適正か、協議する必要があります」
「だ、黙れ…叶わねェなら叶えるまで!邪魔するやつは消し去ってやる!」
「大さんせーだボス、やろーぜ」
「当初の予定通りだよ」


それでもザンザス様を止めようとするチェルベッロをベル様、マーモン様が阻む。私も獄寺くんの爆風から、ザンザス様の傷に障らぬよう出来る限り壁になって庇う。向こうも向こうであくまで反抗し続けるようだ。


「テメェ見えてねーのか?3対5だ。分が悪いのはそっちだぜ?」
「3対5?何の事だい?君達の相手はこの何十倍もの戦力だ」


結果がどうであれ、ザンザス様は関係者全てを始末するための精鋭部隊をヴァリアーは送り込んでいるらしい。総勢は50名。沢田くん達に救いなんてないも同然だ。

けれど、支援に来たランチアの登場により精鋭部隊は絶滅。ランチアは強く、沢田くん達の支援もある。いくらヴァリアーの幹部と言えど、体力は残り少ない。ヴァリアーにもう取る手段はない。ナイフを手から落としたベル様が降参のポーズを取った。


「ダメだこりゃ」
「ウム…。ボス、ここまでのようだ」
「……役立たずの、カス共が…クソ…畜生…てめーら全員!!地獄へ叩き落としてやる!!」


バン、と彼らの中央に向けて一発撃った。全員の顔色が一気に正反対の色へと変貌する。ポリシーは最後まで貫き通さなければポリシーとは言わない。困ったものだな、と銃口から昇る煙を見ながらうんざりと思った。


「ザンザス様は皆殺しをご所望。少しでも動けば、脳天を撃ち抜きます」


たとえ沢田くんの方がザンザス様よりもボスの気質を有しているとしても、抹殺することが私の使命。裏社会から追放されるようなこととなろうとも、引き受けたからには最後までやり通さねば自分が納得できない。


「ケッ!やってやろうじゃねぇか!」
『待て、獄寺』


モニターから獄寺くんを制止するリボーン先生の声が響いた。そう、甘っちょろいガキに情けをかける程、私は甘くない。反撃の余地など与えるわけがなかろう。


『アルの実力はリボーンのお墨付きだっつうことを忘れるなってか…』


アルにはなぜだかわからないが疲労の色が見えない。それに対して獄寺達は…シャマルがどうしたものか、と冷や汗を流した。


「君に恨みを持ってるわけじゃないんですが、死んでください」


これ以上は不毛であるし、この中でまだ真面に動けるのは私だけですしね。ケリは一瞬でつける。一気に距離を詰めて銃剣を横から薙いだ。その首、確かに貰った。沢田くんの頬を流れる冷や汗が、スローモーションのように映る。


「頭を下げなさい、沢田綱吉」


金属の衝突音。沢田くんの首の皮は、まだ繋がっている。「ムム」と背後からマーモン様の声がした。銃剣を押し返される力に対抗するため、こちら側の力も徐々に強まっていく。


「む、骸!?」


クフフ、と彼特有の笑い声が辺りに響いた。


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