同情するなら金をくれ(3/3)


「なんであいつが今…!」
「殺気を向けられるなんて心外ですね。一応、僕は今君達のボスを助けていると言うのに」


獄寺くんの棘を含む視線に目の前の男が呆れた表情で返した。その飄々とした態度。彼に間違いないようだ。周りに目を配れば、確かに一人の少女の姿がない。


「なぜ君のような人がマフィアを庇うのです?」
「今彼を君に殺されると、僕に不利益が生じるのです、よっ!」


銃剣を力技で振り払われ、距離を取るしかなくなる。スカートを払ってもう一度彼のことを見ても、目の前に立っている男は変わらない。沢田くんもなぜここに彼がいるのかわからず目を白黒とさせている。
彼、六道骸はいつもの余裕そうな笑みを携えている。視界の隅で風紀委員長がトンファーを握っている手の甲に血管を浮かせているのが見えた。


「こんなことをして、これから裏社会で生きていくのが困難になるでしょうに。君の気がしれませんよ」
「それは同じく。君はもう暫く実体化できないはずなのに。それなのに無茶をしてまでこちらに出て来るなんて。…パイナップルは牢獄で大人しくしていてはどうです?」
「クッハー!言ってくれますね!!大体君とは昔からキャラが被っててムカつくんですよ!」
「私はパイナップルになったつもりはないのですけれど?」
「誰が髪型のことを言いましたか!というかパイナップルじゃありません!」


被っているのは敬語キャラだ!と骸くんは三叉槍を向けて激しく主張する。

なんだこれは。仲が良い…のか?とりあえず接点の欠片もないと思われた二人は思いがけないことに顔見知りであったのか、とツナは思う。沢田くんがそう思っている間に「もしかして」と山本くんが言葉を口にした。


「もしかしてあの二人、仲間だったりしてな」
「バカか!さっき骸のヤローが10代目のことを庇っただろうが!仲間なら攻撃しねェよ!」
「クフフ。その通り。僕達は『仲間』ではない。どちらかと言えば腐れ縁、ってやつですよ」


言いえて妙ですね。私としては腐れ縁、だなんて信じたくありませんけど。


「どうしても私達の関係に仲間という言葉を使いたければ…そう。私達は」


「モルモット仲間」



沈黙が私達の間に流れた。私達二人の表情は変わらないけれど、心なしか骸くんの殺気が強まったように思える。
やはり、骸くんにとってあの過去はどうしても許され難いことのようだ。当然と言えば当然なのだけれど。あの施設の人間は私達にそれ程のことをしたのだから。


「犬くんや千種くんは私のことを覚えていなかったみたいですけどね」
「無理もない。アルとあの施設で別れて以来、二人は君と接触したことなどないのですから」
『アルって…まさかあのアルか!?』
『…生きてたんだ』


モニターからの声。「今頃気付いたのですか…」と骸くんは呆れ果てたようだ。突然明かされた私達の関係に、沢田くんの顔色はもう今にも倒れてしまいそうなくらい真っ白。そうですね、彼はつい最近まで今の顔色と同じくらい白い世界に住んでいたのだから。少々刺激が強かったのかもしれない。


「とにかく、君も含めて抹殺が依頼ですので。どうか大人しく私に殺されてください」
「毒でやられててもテメェ一人に殺される程オレ達は弱くねぇよ!」
「うむ!条件は同じ。フェアでないのは些か不満だが…」
「アルに毒は効きませんよ」


サラリと骸くんによって明かされた事実に「ハア!?」と獄寺くんが大声を上げた。何のためにわざわざ骸くんが出てきたと思ってるのだか。彼しか真面に私とやり合える相手がいないだからだろうに。
風紀委員長は私に助けられたことを思い出したのか、苦々しい顔をしている。「うわ…反則技じゃん…」なんて背後からベル様のお声が聞こえたが、後で言及させてもらうこととしよう。


「ま、待ってよ稲葉さん!えと…話し合えばわかる!」
「…ハァ。つくづく君は甘い男ですね」
「こればっかりは僕も同感としか言いようがありませんね」


「なんだと!?」と獄寺くんが吠えるが、事実なのだから仕方ない。話し合いで裏社会のやり取りが済むわけがないだろう。現に私の遥か背後からザンザス様の痛い殺気が飛んできているのがわかるでしょうに。


「沢田くん。君はもう裏社会に足を踏み入れているのですよ?話し合いで全てが解決出来るわけがないのは百も承知でしょう」
「で、でも…!」
「……世界中の誰もが君のような人間ではないのですよ」


次いで返した私の声は冷たかった。自分ですらわかった。目の前の沢田くんの頬をつ、と冷や汗が流れる。「(寒い…いや、怖い…?)」
沢田くんが何を考えているのか知らない私は瞬きを一つした。過去がフラッシュバックしてしまいそうだ。何とか押し込めるけれど、腹の底に溜まった怒りと憎悪はそろそろと顔を出してきている。


「愛や信頼で生きる人もいれば、金で生きる人もいる。私は金を愛する。金を信じる。いつだって、私を生かしてくれたのはお金。だから私は金のために行動する。私が持つ絆は、金だけ」
『……アル』


観覧席でリボーン先生が私の名前を小さく呼んだ。先生は私の過去を知っている。全てを知った上で、先生は私に生きる術を教えてくれた。


「私のような欲で生きている人間や、骸くんのような野望のために生きている人間のことを君はあまりにも甘く見過ぎている。上に立つ人間としては不適切すぎる」


忠告はこの辺りで終いにしよう。金にならないことをするなんて、らしくないことをしてしまった。どうせ彼はここで私に殺されるのだから。「さあ、大人しく死んでください」引き金に当てている指に力がこもる。いつでも彼らの大将、一番の実力者を殺すことが出来る。


『あいつの金に対する執着はそういうことだったのかぁ……だが、これでオレ達の勝ちだぁあ!』
『そう慌てるな。アルを止められる方法が一つだけあるぞ』


勝利を確信したスクアーロ様に、リボーン先生が得意げに笑い返した。む、と彼の方をスクアーロ様が見る。


「リボーン先生であろうとも、私を止めることは出来ませんよ」
『おまえ、もう報酬を受け取ったのか?』


「成る程。その手がありましたか」骸くんが感心したように口にした。しまった、という顔をするヴァリアー。どうにかして止めなければ、という思いが走る。ヴァリアーが行動するよりも早く、リボーンはすらすらと言葉を並べる。


『おまえに依頼をするぞ』
「……先生。依頼を受けた以上、私にも…元・ヒットマンとしてのプライドが…」
『報酬は5000万だ』


沈黙が支配した。「ご、5000万!?」沢田くんがあまりの金額の大きさに驚愕した。私だって驚いている。


「ザンザス様…」
『う゛ぉ゛おおおい!!待て!!待てぇえ!!早まるなぁあああ!!!!』
「私のために……裏切られてくださいっ!」


いつも冷静でと努めるアルがこれでもかと言うほどの満面の笑みを浮かべ、銃の側面でザンザスの米神を横殴った。ザンザス様は頭を殴られて昏倒した。よし完璧。今日までの不満や恨みなどは含まれていない。多分絶対。
リングを唖然としているチェルベッロへと引き渡し、自分より身長の高いザンザスを軽々と俵担ぎにする。

沢田くん達が呆気に取られている中を、軽々とした足取りで校舎裏の閲覧席に向かった。


「リボーン先生。私の口座にきちんと振り込んでいてくださいね。さあ、跳ね馬ディーノ、病院に案内してもらいますよ」
「え!?ちょ、えぇええええ!?!?」


赤外線は既に解除されていたようなので、ディーノ氏を空いている反対側の腕で抱え込んで車が止まっているであろう裏門に向かった。「ボスゥウゥウウ!?」と背後からディーノ氏の部下がついて来ているのがわかる。


「ほ、ほんとにお金のために動くんだ…」


ボソッと呟いたツナは、アルにはお金に関しては気を付けよう、と心に刻んだ。


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