金が敵(4/4)


私が並盛中学に到着すると、雲の守護者戦は少し前に終わっていた。既にゴーラ・モスカが暴走した跡がある。少し遅れて登場しようと思った結果がこれだ。完全にアウェー。自己責任だ。

雲戦のフィールドは有刺鉄線、ガトリングなど非常に危険な兵器があった。最も危険な、まるで戦場のようなフィールドだ。そんなフィールドでも、ゴーラ・モスカが暴走しているので危険度が霞んで見えるが。まるでアクション映画のワンシーンのようだ。騒ぎが収まるまで敷地外で見物と決め込むとしよう。こっそり持ち込んだクッキーの封を切る。


その後の沢田くんの到着により、ゴーラ・モスカのエネルギー源がボンゴレボス9代目と判明した。満身創痍の9代目を見て、沢田くんは唖然と、リボーン先生は珍しく慌てていた。


「面白いこと、とはこのことですか」


ザンザス様の背後に影のように移動し、尋ねた。ああ、与えられた隊服が重い。メイド服の上に着るのはエプロンだけで十分であるのに。ああ、あの真っ白なエプロンが懐かしい。隊服はいいからエプロンを返してくれ。
ザンザス様は私の言葉に、それはそれは愉快そうに爆笑した。死ねばいいのに、おっと。


「稲葉さん!?何でこんなところに…危ないよ!」
「あのやろう、イタリアに帰ったんじゃあ…」


まだ滞在はしていると学校で言った筈だが、と心の中で獄寺くんに反論した。ああ、でもあの時沢田くん達は登校していなかったか。


「アホツナ。アルが着ている上着をよく見てみろ」
「うししっ、なーんにも言ってなかったんだ」
「ええ、何も言っていませんでしたね」


リボーン先生の指示通り、沢田くんは私の服装に目を凝らした。「あれはヴァリアーの隊服だぞ」リボーン先生がそう言うと「なあっ!?」と沢田くんが大きく声を上げた。相変わらずいちいち反応が大きい人だ。リボーン先生が私の台詞に眉を顰めたのがわかった。


「なんだってまたヴァリアーに」


ああでも、先生のつらそうな顔を見るのは少々心苦しい。そうですね。恩のあるリボーン先生にはお話ししてもよろしいでしょう。そう自身を納得させた。


「…あれは、私がいつものように仕事を探しにハローワークへ行った日のことです」
「なんか語り出しちゃった!!しかもハローワークとか超庶民的――!?」
「その頃はいい仕事が見つからなくて、悪戦苦闘していました。その時、職務のわりに給料の良い職場を見つけました。それが、独立暗殺部隊ヴァリアーです」
「給料がいいって、それだけで!?」
「アルにとっては十分な理由だぞ」


アイツはバイパーとは違った金好きだからな、とリボーンが付け足した。「(全然金好きには見えねぇ…)」ツナは口に出さずにそう思った。


「無事ヴァリアーに就職が決まりました。メイドとして、ですが」
「んなアホな!!」


本当だ、とさっきから突っかかってくる獄寺くんに心中で舌を突き出した。


「とは言いましても、リング争奪戦が終了した時点で幹部の昇格が決まったんですが。正直無茶振りにも程があると思いますので、給金を受け取ったら逃げようかな、なんて考えてます」
「このカス」


顔の真横を弾丸が通って行った。


「冗談です」
「稲葉さんって命知らずなの――!?」


一時は本気で思った、とは言わないでおこう。ザンザス様がまた銃を向けたのだ。命は惜しい。

「とにかくだ」とザンザス様が話を区切った。


「9代目へのこの卑劣な仕打ちは実子であるXANXUSへの、そして崇高なるボンゴレの精神に対する挑戦と受け取った」
「なっ!?」
「しらばっくれんな。9代目の胸の焼き傷が動かぬ証拠だ。ボス殺しの前にはリング争奪戦など無意味。オレはボスである我が父のため、そしてボンゴレの未来のために、貴様を殺し、敵を討つ!」


この雲の守護者戦に勝っても、負けても、全てザンザス様の都合のいい方向に事が運ぶ。ザンザス様のボスとしての地位は確固たるものとなる。なんて用意周到なのか。


「…ザンザス、そのリングは返してもらう。お前に9代目の後は継がせない」


沢田くんのこの一言により、9代目の弔い合戦が行われることとなった。どちらにせよ、ザンザス様にとって悪い方向へは傾かない。最悪の事態は、ザンザス様が敗北してボスの座を完全になくされること。


「我々は、勝利者が次期ボンゴレボスとなるこの戦いを、大空のリング戦と位置づけます」


ザンザス様はその決定に「悪くない」と答えた。そんな彼を見たチェルベッロが、私に視線を移した気がした。


「それでは明晩、並中にて大空戦を行います」
「ただし、決戦の前に『サポーター戦』を挟んで行います」
「さ、サポーター!?」
「守護者のみならず、ファミリーを支える存在が組織には必要不可欠です」
「謂わばボスの器量を量る戦いです」


突然に宣言された新しい勝負。双方驚きを隠せないようだ。


「明日までにそれぞれサポーターを一人、決定しておいてください」


なんだか嫌な予感がする。いや予感と言うよりは予知だろうか。夜逃げでもしてみせようか。「逃げんじゃねぇぞ」ザンザス様が隣で呟いたのを聞いて、ポーカーフェイスを崩しそうになってしまった。今度こそ、今度こそ明日が来なければいいのに。


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