▼金が敵(4/4)
私が並盛中学に到着すると、雲の守護者戦は少し前に終わっていた。既にゴーラ・モスカが暴走した跡がある。少し遅れて登場しようと思った結果がこれだ。完全にアウェー。自己責任だ。
雲戦のフィールドは有刺鉄線、ガトリングなど非常に危険な兵器があった。最も危険な、まるで戦場のようなフィールドだ。そんなフィールドでも、ゴーラ・モスカが暴走しているので危険度が霞んで見えるが。まるでアクション映画のワンシーンのようだ。騒ぎが収まるまで敷地外で見物と決め込むとしよう。こっそり持ち込んだクッキーの封を切る。
その後の沢田くんの到着により、ゴーラ・モスカのエネルギー源がボンゴレボス9代目と判明した。満身創痍の9代目を見て、沢田くんは唖然と、リボーン先生は珍しく慌てていた。
「面白いこと、とはこのことですか」
ザンザス様の背後に影のように移動し、尋ねた。ああ、与えられた隊服が重い。メイド服の上に着るのはエプロンだけで十分であるのに。ああ、あの真っ白なエプロンが懐かしい。隊服はいいからエプロンを返してくれ。 ザンザス様は私の言葉に、それはそれは愉快そうに爆笑した。死ねばいいのに、おっと。
「稲葉さん!?何でこんなところに…危ないよ!」 「あのやろう、イタリアに帰ったんじゃあ…」
まだ滞在はしていると学校で言った筈だが、と心の中で獄寺くんに反論した。ああ、でもあの時沢田くん達は登校していなかったか。
「アホツナ。アルが着ている上着をよく見てみろ」 「うししっ、なーんにも言ってなかったんだ」 「ええ、何も言っていませんでしたね」
リボーン先生の指示通り、沢田くんは私の服装に目を凝らした。「あれはヴァリアーの隊服だぞ」リボーン先生がそう言うと「なあっ!?」と沢田くんが大きく声を上げた。相変わらずいちいち反応が大きい人だ。リボーン先生が私の台詞に眉を顰めたのがわかった。
「なんだってまたヴァリアーに」
ああでも、先生のつらそうな顔を見るのは少々心苦しい。そうですね。恩のあるリボーン先生にはお話ししてもよろしいでしょう。そう自身を納得させた。
「…あれは、私がいつものように仕事を探しにハローワークへ行った日のことです」 「なんか語り出しちゃった!!しかもハローワークとか超庶民的――!?」 「その頃はいい仕事が見つからなくて、悪戦苦闘していました。その時、職務のわりに給料の良い職場を見つけました。それが、独立暗殺部隊ヴァリアーです」 「給料がいいって、それだけで!?」 「アルにとっては十分な理由だぞ」
アイツはバイパーとは違った金好きだからな、とリボーンが付け足した。「(全然金好きには見えねぇ…)」ツナは口に出さずにそう思った。
「無事ヴァリアーに就職が決まりました。メイドとして、ですが」 「んなアホな!!」
本当だ、とさっきから突っかかってくる獄寺くんに心中で舌を突き出した。
「とは言いましても、リング争奪戦が終了した時点で幹部の昇格が決まったんですが。正直無茶振りにも程があると思いますので、給金を受け取ったら逃げようかな、なんて考えてます」 「このカス」
顔の真横を弾丸が通って行った。
「冗談です」 「稲葉さんって命知らずなの――!?」
一時は本気で思った、とは言わないでおこう。ザンザス様がまた銃を向けたのだ。命は惜しい。
「とにかくだ」とザンザス様が話を区切った。
「9代目へのこの卑劣な仕打ちは実子であるXANXUSへの、そして崇高なるボンゴレの精神に対する挑戦と受け取った」 「なっ!?」 「しらばっくれんな。9代目の胸の焼き傷が動かぬ証拠だ。ボス殺しの前にはリング争奪戦など無意味。オレはボスである我が父のため、そしてボンゴレの未来のために、貴様を殺し、敵を討つ!」
この雲の守護者戦に勝っても、負けても、全てザンザス様の都合のいい方向に事が運ぶ。ザンザス様のボスとしての地位は確固たるものとなる。なんて用意周到なのか。
「…ザンザス、そのリングは返してもらう。お前に9代目の後は継がせない」
沢田くんのこの一言により、9代目の弔い合戦が行われることとなった。どちらにせよ、ザンザス様にとって悪い方向へは傾かない。最悪の事態は、ザンザス様が敗北してボスの座を完全になくされること。
「我々は、勝利者が次期ボンゴレボスとなるこの戦いを、大空のリング戦と位置づけます」
ザンザス様はその決定に「悪くない」と答えた。そんな彼を見たチェルベッロが、私に視線を移した気がした。
「それでは明晩、並中にて大空戦を行います」 「ただし、決戦の前に『サポーター戦』を挟んで行います」 「さ、サポーター!?」 「守護者のみならず、ファミリーを支える存在が組織には必要不可欠です」 「謂わばボスの器量を量る戦いです」
突然に宣言された新しい勝負。双方驚きを隠せないようだ。
「明日までにそれぞれサポーターを一人、決定しておいてください」
なんだか嫌な予感がする。いや予感と言うよりは予知だろうか。夜逃げでもしてみせようか。「逃げんじゃねぇぞ」ザンザス様が隣で呟いたのを聞いて、ポーカーフェイスを崩しそうになってしまった。今度こそ、今度こそ明日が来なければいいのに。
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