痩せの大食い(3/3)


ある意味待ちに待った週末。約束していた京子さんと一緒に商店街へと向かった。


「で、なんでオレらまで一緒なんだ」
「ははっ!まあいいじゃねぇか」
「そうだよ獄寺くん。折角稲葉さんが誘ってくれたんだから」


「じ、10代目がそうおっしゃるなら…」と獄寺くんは沢田くんの説得に大人しくなった。沢田くんの言うことなら何でも従う獄寺くんはまるで忠犬のようだ。
沢田くんは京子さんに気があるのだろうか?やけにご機嫌な気がする。


「あと一人約束してる子がいるんだけど…」
「京子ちゃ――ん!」
「は、ハル〜〜!?」


私達の方向へ向かって、京子ちゃんの名前を呼びながら手を振る少女が、商店街の入口に立っていた。沢田くんが「ハル」と呼んだのであの子の名前はハルなのだろう。


「はひ!?つ、ツナさんってばまた新しく女を作ってー!」
「ご、誤解を招くような言い方するなよ!」
「ハルちゃん。この子が留学生のアルちゃんだよ」


沢田くんとハルさんのやり取りが面白かったのに、京子ちゃんの言葉であっさり誤解が解けてしまった。
大きな瞳を瞬かせてハルさんは謝罪の言葉を口にした。後ろ頭のポニーテールが頭を下げる動きに合わせて揺れる。


「初めまして!三浦ハルと申します」
「稲葉アルと言います」


ハルさんとの挨拶も済ませ、京子さんオススメのケーキ屋へと足を向けた。店の名前はラ・ナミモリーヌ。ここのケーキは全部美味しいんだよ、と京子さんが言った。これだけの大人数だ。予約を取っておいて良かったと安堵した。


「さあ!好きなものを頼んでください!」
「沢田くん達の分は私が奢りますので」
「え、でも……」
「お礼も兼ねてますから。…では私はティラミス2つに、ショートケーキのホール1つ。苺とブルーベリのタルトを1つずつに、ガトーショコラ3つ。チーズケーキ1つと、あとモンブラン3つで」


私の注文の量に「え」とその場にいる全員が固まった。


「大食いなのは変わってねえみたいだな」


唐突に私の隣の席からツッコミが来た。いつの間にか来ていたリボーン先生が座っている。「リボーン!なんでいるんだよ!」と叫んだ沢田くんは、とんかちに変化したレオンに殴られていた。


「恥ずかしながら相変わらずで……あ、エスプレッソと紅茶も追加で」


紅茶はダージリンがいいな、と思った。オーダーを受け取った店員は一度に来た注文の量に慌ただしく店の奥へと走って行った。先生にも一応、奢りですから、と言った。


「今日はアルに話があって来たんだぞ」
「何の用でしょうか、リボーン先生?」
「ファミリーへの勧誘だ」
「な!?リボーン!!稲葉さんまで巻き込むつもりかよ!」


リボーン先生を戒める沢田くんを横目に見ながら、私は運ばれたケーキに手を付けた。「またマフィアごっこか?」と山本くんが言った。


「大体こんな素性もわからねぇヤツを…!オレは反対です、リボーンさん!」
「ハッ!そういえば稲葉さん、リボーンの元教え子だって…」


「やっぱりマフィア!?」という言葉は、京子さんとハルさんの手前、沢田くんは口にはしなかった。二人は何の話かわからず、頭上に疑問符を浮かべている。


「アルは俺の個人的な生徒であって、どこかのファミリーに属してるわけじゃねえぞ」


沢田くんの考えを読み取ったリボーン先生は一方的に答えた。今の状況がどうとは答えられないが、リボーン先生と出会った頃のことを指しているのであれば当たっているので、口出しは控えようと思う。
沢田くんはまだ何か言いたげであったが、私から何か情報を与えるつもりはない。


「先生、その話はお断りしますね。それよりも皆さん、ケーキを味わないんですか?」
「はひ!そうでした!」


一時的な凌ぎになるが、今はこれで十分だろう。ペロリ。その間にケーキを1つ平らげた。


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