金字塔(3/7)


重い足を引き摺ってマーモン様と帰宅した途端、スクアーロ様の怒号が耳に飛び込んで来た。近頃は怒鳴られてばかりだ。そろそろ私の鼓膜の限界が来るのではないかと思う。


「このカスメイド!無断でどこかに行くなっつったばかりだろうが!!」
「そんな怒鳴らずとも…今回はきちんと置き手紙を残して行きましたでしょう?」
「『生きておりましたら必ず戻って参ります』……って、これのどこが怒鳴らずにいられるかってんだァ!!」


何か問題があったのか。私としては適切な言葉を選び抜けたと思ったのに。それで怒られるなんて理不尽。ただでさえスクアーロ様のお声はうるさいのに。もう懲り懲りだ。


「テメェは一度給料カットしなけりゃわからねぇみてェだな…」
「それは…!どうかお考え直しを!」


給料を差し引かれるだなんて…私には耐えられない苦行!
人生15年。お金のためだけに生きてきた私からそれを奪うだなんて。鬼だ。あんまりだ。身を裂かれるよりもつらい。


「んもう、落ち着きなさいよスクアーロ。アルちゃんからお金を取り上げるなんて、そんな過酷なことしなくても」
「ルッスーリア様の仰る通りです!どうか、どうか給金だけはご勘弁を」
「勘弁なんて言うなら銃口を向けるんじゃねェ!!」


だってこうでもしないとスクアーロ様は私の給料を下げてしまうのでしょう?尚更出来ません。


「っで!このっ、クソボス…!」
「るせぇ」


ああ、後で床に飛び散ったグラスを片付け、カーペットに染みが出来る前に液体を拭き取らないと。ご迷惑をおかけした謝罪も入れなくては。
だがその前にまずこの困難を乗り越えなくては。真っ当な給料を受け取らないまま次の職を手にするなんて、私の心が許そうか。


「ザンザス様からもどうか進言を。でないと私はこのコートとメイド服を返上致さなければなりません」
「ボス。いい機会です。こんな女、今ここでクビを切ってしまいましょう。腕のいいメイドやコックなど、すぐに探してみせます」


ああどうか切る際は退職金に色を付けてくださいませ。いくらレヴィ様のしたり顔に腹を立てようとも、今回ばかりは下手に私から反論出来ない。全てはザンザス様の決定次第だ。
どうか、と何処ぞの劇団で身につけた演技の涙を潤ませながらザンザス様のお顔を見つめる。今ここで解雇されてはもう二度と皆様のために料理を振舞う機会などなくなることだろう。


「テメェも黙ってろ。レヴィ」
「ぼ、ボス!?」
「アル。二度目はないと思え」


パッと顔を上げた。有難いお言葉だ。「感謝いたします」ぺこりと頭を下げて拭き物を取りに部屋を出た。今日のディナーは腕によりを揮うことにしよう。


「胃袋を制した者勝ちのセオリーねぇ!」
「ししっ…あれ、自覚してやってんの?」
「そうは思えないね」


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