出発、そして祭り
サスケ、ガイ先生と別れオレ達は並んで先を急ぐ。
荷物が重い。自来也は先のオレの言動に不満を抱いているのか、二人とも黙って歩き続ける。空気も重い。
「……自来也、暁を悪く言うのは止めてくれ。たとえ大蛇丸が加入していた組織といえど、それは過去の話なんだ」
自来也はかつての仲間の名前が出てきたことに驚き瞠目してこちらを見る。オレは前を見たまま歩く。
「…お前はなぜそこまであの暁に肩入れするんじゃ」
「そこのリーダーと知り合いなんだ。何人かのメンバーともな」
ふっと笑って答えれば、またもや自来也は驚き「そうか…」と呟いた。自来也は少なからずオレの事情を知っている。これだけで納得するのも当然と言えば当然だ。
「そういえば綱手という人はどういう人なんだ?オレは噂でしか聞いたことがないんだ」
伝説の三忍、綱手。三忍の中でも紅一点で、医療忍者の中でも頂点に君臨するような方。
現在の隊の基本形、四人一組の小隊の中に医療スペシャリストを加えるスタイルを最初に考案した人だ。医療忍者であれば必ず知っている人の内の一人。簡単に言えば偉人。木ノ葉に大きな貢献を与えた人だ。
「そうだのォ…一言で言うと嫌な奴じゃ。あとは賭け事が死ぬほど好きで顔は国々知れ渡っとる」
賭け事…ギャンブルか。ギャンブルにはまるのはいかんぞぉ、人をあっという間に堕落させる。金もあっという間に消えていくしな。いいことがない。
「なら賭け事の町に行けばすぐに見つかるな」
あまりの賭け事好きでついたあだ名が“伝説のカモ”
そんな有名人ならきっとこの旅も早く終わる、と高を括ったんだが…自来也は否定する。
「が、いくら有名な伝説のカモでもおそらくすぐには見つからんのォ。あやつは老けるのが嫌で今でも多分特別な術で容姿を変えとる。実際五十歳でも二十歳の頃の姿だからのォ。それどころか最近聞いた話じゃ、臨機応変に十代・三十代・四十代にも変化して金貸しから逃げ通してるらしいのォ…」
「ダメダメじゃねぇかよ」
やっぱり年齢詐欺をしていたのか。二十歳の姿?若作りしすぎだろ。オレ?オレは別だよ
「綱手は昔っから何よりもギャンブルが好きでの。けど運も実力も最悪でのォ…。皆にカモられっぱなしでその名がついた。んで、いつも金借りたまま逃げて……へへへっ、懐かしいのォ」
「懐かしがってる場合か。んー…地道に探すしかないのか」
地道に探す方法。片っ端から賭け事の店を覗いたり、あちこちで噂を聞いたり。あっはっは!二人して乾いた笑いが出るよ!
九喇嘛の野郎は旅に出ると聞いて、歩くのは嫌だとオレの中に引き籠ったし。八つ当たりになるが、あいつをぶっ飛ばしたいな!
「じゃが時間は無駄には使わん。道中は全てお前に時間を充てるからのォ」
「ああ、確か見返りは術を教えるとか言ってたな…」
本当は甘いものが欲しかったというのに術なんて…いや、仮にも部隊の隊長に任命されたから忍術は必要になったけどさぁ…ね?
「ワシが教えるのはお前の父、波風ミナトが使っておった術…【螺旋丸】じゃ!」
「……ああ」
「だから反応が薄いんじゃ!!」
そう言われてもなあ…。螺旋丸、本家ナルトが得意とした術。オレには他にも多彩な術があるから別に大技とかどうでもいいんだが。
「昔まだチャクラがうまく練れないときに一度教えられたんだ」
「……どうやって?」
厳しい目付きで自来也に問われる。あれ?なんでって思ったけどそういや自来也にはまだ話してなかったな
「精神世界、って言やわかる?」
「まさか?」
「そのまさか」
精神世界。その名の通り精神の世界。波風ミナトが【屍鬼封尽】を施す際にうずまきナルセの体内に自分の意識も組み込ませた。つまり精神の世界へ行けばいつでも父さんに教えを請うことができると言うわけ。
自来也はさすがと言うか、これだけでオレの言いたいことが伝わったようだ。
だけど螺旋丸を習得できたかと問われれば答えはノー。というわけで修行はすることになった。
*****
その日泊まる予定であった町は谷底にある。そこそこの規模の町であり、そこではちょうど祭りがあった。この前も祭りがあったな、なんて。
「祭りに行くのか?」
「そうだ。休養も必要だからのォ」
オレに気を使ったのか自来也はやんわりと微笑んだ。…そんな子ども扱いされてもこっちは微妙な心境なんだけどな。いや、甘えたくなる時もあるけれど、そんなべったべたに甘やかされても…
とりあえず、と人々が賑わうところへ行った。
この前の祭りとは比にならないが沢山の出店が並んでいた。この祭りは前回のように一日限りのものではなく、何日か続くらしい。
前回はまんまの姿だと人の視線が煩わしかったから、実をいうと今はすごく楽しい。自来也に感謝しないと、な。あんな変質者でも気が利くじゃないか。
ありがとう、と言おうと自来也に振り向いたらやつはまた数人の美女をナンパしていた。…お礼を言う必要はないよな?
美女をナンパだなんて…オレだって我慢してるのにやつには理性というものがないらしい。無視の方向で行きましょう。祭りは一人で楽しむかなー?
あれから色んな店を練り歩いた。
飴はこの前サクラとヒナタと一緒に食べたから眺めるだけにして、クレープも父さんに買ってもらったから今回はなし。フランクフルトは今食べる気分じゃないし、綿飴は口の周りがべたべたになりそうだし洗う場所がないから却下。
そういうわけでこれまで結局一銭も使ってない。祭りってお金が飛んでいくからもったいないけど、こう使わないのももったいないよなあ。
どうしようかなと考えながら歩いているとある店の前で足が止まった。お面屋だった。子供に人気のキャラクターが並ぶ中で異色なものが目に留まる。
「これ…」
「おう坊主!こいつが欲しいってのか?物好きだな」
店主が指したお面はオレが釘づけになっているものだった。物好きなんてひどいな…。確かにこの面は子供受けしなさそうだけど…
オレが目をつけた面は狐の面だった。木ノ葉の暗部がつけている面に似ていて頬に三本の赤い線が入っていた。可愛いと言うより、いっそ憎らしい目付きのその面は相棒にそっくりだった。
これじゃあ買い手がいないだろ。子供向けのお面屋なんだからなおさらさ。
「これ、買います」
「毎度!三十両だ」
店主に三十両を払ってお面を受け取った。やっぱりそっくり。自然と笑みがこぼれた。これを見た相棒は何て言うかな?楽しみだ。
さて、にやつく唇を戻して。そろそろあの変質者を捕まえに行くかな。今までの中で最高の宿を要求してやっか。宿代が高すぎてオレに泣きついても知らないんだから。
*****
先程の祭りで水風船を大量に購入し、自来也と共に丘の上に来た。やつがちょっとやつれてるのは気のせいだ。ただちょっと今日予約した宿のランクを教えただけで…
修行を始めるとのことで、自来也からあるものを投げ渡される。キャッチし、手の中を見ればそこにはその買った水風船があった。これが何か?と目で問えば自来也は笑って自分も水風船を手に取る。
「螺旋丸の修行は大きく三段階に分かれる。まず、回転だ」
自来也が手にした水風船からボコボコと音が上がる。よく見れば水風船の中の水が音を立てて暴れていた。手を動かさずに風船の中の水を回している。注意深く観察しているとパァンと水風船が破裂した。
「“木登り修行”でチャクラを必要な箇所に集中・維持。“水面歩行の業”でチャクラを一定量常に放出。その二つは知っとるのォ?で、今回はこの“水風船の修行”でチャクラの流れを作る。つまり回転だ」
自来也からの説明によればこの二つの修行を応用して、チャクラを手に集中、維持し、放出し続ける。それにより水風船の中の水をおしかき回すものだと。
とにかくやってみろと言われて集中。
右手の水風船に目線を移して集中する。チャクラを体内で練る。そのまま蓄積。もっと高濃度に。高密度に。ここだ!というタイミングでチャクラを放出。
「あ」
パン、と水風船が割れた。
「何!?もう成功したのか!?」
「いや、爪立てちゃった」
テヘペロ☆ついつい力みすぎちゃったみたいでーす!
自来也は呆れたように溜め息を吐いた。いや、無意識は仕方ないよなー。新たにもう一つ水風船を取り出す。自来也は暇潰しに、と話し始める。
「ミナトがこの術を完成させるのに丸三年かかった。取得難易度は上から二つ目、Aランク」
超高等忍術レベルじゃと言う。はたしてお前に会得できるのかのォ?と挑発してくる。ニヤニヤと嫌らしい笑いを浮かべやがって…前に修行を断ったこと、根に持ってんのか?
「あのさぁ…邪魔だから変質者は情報収集にでも行けっての」
「自来也じゃ!まったく…師は敬うもんじゃぞ」
別に自分からお願いしたわけじゃないんで別に敬わなくていいんですー。自来也はほどほどにな、と頭を撫でて町に下って行った。
修行も始まる
(やっと邪魔者がいなくなった)
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