星の瞬き | ナノ

  蛇との再会


森に入りしばらくすれば、どこからか悲鳴が聞こえてきた。第七班は足を止める。


「今の…人の悲鳴よね?」

「ああ…」


早いな。すでにぶつかり合っているチームがあるとは。

今の悲鳴、ただ事じゃなかった。命の危険を感じたような……そんなときに発するものだった。

何やら不安げなサクラが、また口を開く。


「な、なんか緊張してきた…」

「大丈夫!オレらなら出来るってば!」

「なんのために今まで修行をしてきたんだ」


互いに励まし合い、不安を取り除く。オレはにっこり浮かべた笑みを引っ込ませ、真剣な目つきをする。


「といっても、今度の試験は本当に危険だ。油断は禁物だからな。オレの指示には必ず従え、いいな」


三人共険しい目で互いの双眼を見る。油断はしない。その確認の取り合いだ。


確認を取れたところでオレはまたへらりと笑う。


「で、だ。オレちょっとトイレに行ってくるってば」

「もう!女の子の前でそんなこと言わないでよね」

「気を付けて行って来いよ」


だーいじょーぶだーいじょーぶと手をひらひらと振りつつ茂みの中へ。


お互いの姿が見れないところまで行けば、きっと眼光を鋭くさせる。


今回回避するのはオレの五行封印とサスケの呪印。

九喇嘛と契約したとはいえ、五行封印は未だにオレらに効く。何としても回避しなければ大蛇丸との戦闘の際、気絶してしまいサスケの呪印を防げない。


しかし、念には念を込めて。


指にチャクラを込める。ボッと浮かび上がってくるのはオリジナルの術式。

オレの術が完璧であれば、呪印を軽くすることはおろか、効果すらも消してしまうはず。実際に試したわけじゃないから何とも言えないが。


手を後ろに隠し、二人の元へ帰る。

するとサスケがクナイを構えてこちらをキツく睨んできた。どうにもオレの偽物が出たそうで。


「そんなに警戒して、どうしたってば?ま、警戒しろって言ったのはオレだけど」

「ナルセ…波の国でお前が弟子入りの際出した三つ目の条件は何だ?本物なら答えられるはずだ」


その質問で来るか。確かにそれはオレ、サスケ、サクラ、カカシ先生の四人しか知らない。人物を絞り込むにはうってつけだ。


「イタチの殺害を諦めること。これでいいのかァ?」

「……ほ、本物みたいよサスケ君」

「そうらしいな…」


サスケは息を吐きつつクナイを下ろす。サクラは安堵の息を。

とりあえず座れる場所に移動したいな。腰を下ろして対談。オレがいない間に起こったことを詳しく説明してくれた。オレの偽物か…油断するなと忠告しておいてよかった。


そうっとサスケの首に手を伸ばし、術を施す。


「な!何しやがんだ、テメェ!!」

「ん?驚かそうと思って」


首元を押さえて後ずさるサスケ。サクラは珍しくたじろぐサスケに目をハートにしている。こんなときでも恋愛一直線か。ここまでいくと尊敬に値する。


とりあえず、術をかけることには成功した。あとはどれだけ効果があるか、だけだ。大蛇丸に遭遇しないことが一番なのだが。

オレが考え事をしている間、サスケも何かを考えていたようで口にする。


「一旦三人バラバラになった場合…たとえそれが仲間であっても信用するな」

「それじゃどうするの?」

「念のために合言葉を決めておく」


合言葉か。長くないものがいいな。覚えるのが面倒になる

山、と聞いたら川って答えるやつでいいじゃん!
そう提案したらテンプレすぎるとお叱りを頂いた。


「いいか、合言葉が違った場合はどんな姿形でも敵とみなせ。よく聞けよ、言うのは一度きりだ…忍歌『忍機』と問う。その答えはこうだ

『大勢の敵の騒ぎは忍びよし 静かな方に隠れ家もなし 忍には時を知ることこそ大事となれ 敵の疲れと油断するとき』」

「OK!」

「長っ!!」


無理だわ、覚えれないわそれ

サクラは呆れるような目を向けてきたが仕方ない。サクラのように素晴らしい頭脳を持ってるわけではないのだ。無理だ


サスケが腰を上げたので、オレ達もそれに続く。


突然、ゴォッと突風が吹いた。自然なものではない。忍術だ。

やはり見逃してはくれないようだな。次第に風は強くなり、七班は散り散りとなった。




*****




「全くもって面倒だ」


風がおさまってくれば、器用に体をくねらせて地面に着地する。周囲の木の枝は風の影響でところどころ折れ曲がっている。自然災害だな。


おそらくすでに大蛇丸はサスケ達と遭遇している。時間の猶予はない。急ぐしかないようだ。


ポーチからクナイを取り出して、低い姿勢を取り構える。

対峙しているのは大蛇。蛇はそのスリムな体から好きだが、こんなに大きいものは遠慮したい。可愛くないもん


「九喇嘛、聞こえるな」

「(…やつが来たか)」


頭の中に直接響く声。テレパシーだ


「やつらにまだオレ達の関係を知られるわけにはいかない。窮屈だろうが、そこで我慢していて欲しい」


そことはつまり、オレの腹の中。

封印されていた場所だから、いい思い出はないだろう。だが、今は我儘を言っている場合ではない。それを九喇嘛も理解している。


「いざというときは力を貸してほしい」

「(ククッ、当たり前だ)」


大蛇は会話が終わらない内に襲ってくる。人の話が終わるまで待てないものかね。躾がなってない


以前使ったようにチャクラ糸に風のチャクラを纏わせ、大蛇を捕縛する。だが体の表面が固いせいか、かすり傷程度の傷しかつかない。

ならば直接攻撃を食らわせるまで

今度はクナイに火のチャクラを纏わせる。大蛇の背中に飛び乗り、一気に突き刺す。そしてそのまま体に沿って引いていく。


ある程度の傷をつければ近くの木に飛び移り、退避する。火のチャクラは風のチャクラを呑みこみ、その勢いを増していく。

やがて大蛇の体は炎に包まれ、跡に残ったのは焼け焦げた死体のみ。蛇の丸焼きの完成だ。


大蛇を仕留め終わったのであれば、ここにはもう用はない。急ぎ、二人の元へ向かう。





*****




サスケとサクラはナルセに変化していたとある草忍の男と対峙していた。ナルセの偽物、草忍の男は変化を解き、不敵に笑う。

二対一だというのに余裕そうな態度。きっとかなりの実力者だろう。自分達に敵うものか、わからない


草忍の男は懐に手を入れ、あるものを取り出す。地の書だ。


「私の地の書が欲しいでしょ…君達は天の書だものね」


そう言えば男はその巻物を持ち上げ、長い舌を使って飲み込んだ。

人間技ではない。蛇…そう蛇を称するのが適切だ。さながら自分達は睨まれた蛙というわけだ。


巻物を飲み込んだ男は二人に向き直り、口を開く。



「さぁ、始めようじゃない…巻物の奪い合いを…命懸けで



男と目が合った瞬間、死のイメージが頭を巡る。
このままでは殺されてしまう。反撃する暇もなく、叫ぶ暇もなく。


虐殺だ


サスケは地に手をついて嘔吐し、サクラは朦朧として涙を流す。


サスケはこの死のイメージについて写輪眼で分析するが、これはただの殺気。決して幻術などではない。

殺気だけでここまで圧倒されるとは。実力の差が分かってしまう。あまりの恐ろしさに戦慄きが止まらない。


「クク…もう動けまい」


男はこの状況を楽しんでいるのか、わかりきったことを口にする。攻撃しようとはしていない。ただ、この状況を楽しみ動けない自分達を見て嘲っているのだ。


動け、動けとサスケは己の体に叱咤する。恐怖で竦み上がった体はピクリとも動こうとしない。

草忍の男は数本のクナイをサクラに向かって投げた。サクラも自分と同じく体が動かない状態。あの状態のまま攻撃されたら確実に大きな傷を負う。写輪眼を発動させて動けと命じても体は動かない。


ガッ


ぽたぽたと滴り落ちる血はサクラのものではない。


「……ぐぅ…っ!」


サスケの太腿から流れるものであった。サスケは苦しげに呻いてクナイを引き抜く。

サクラははっと我に返った。サスケが自分で傷を作り、体を必死に動かして自分を助けてくれたのだと。


サスケに声をかけようとするも、サスケ自身にそれを塞がれる。サスケの手により口を抑えられたからだ。


「サスケくん!蛇!」


サスケの手を押しのけ、サクラは叫ぶ。ようやっと蛇に気付いたサスケは慌てて飛び退き、サクラも続く。

しかし音を立ててしまい蛇に居場所を突き止められる。蛇を見てサスケは先ほどの草忍を思いだし、ぞっとする。


「く、来るなぁぁああああ!!」


絶叫しながらクナイを大量に蛇に投げつける。蛇は血を噴き出しその場に倒れる。

一度は危機を乗り越えたが、それは一瞬のもの。倒した蛇からめりめりと音を立てて草忍の男が現れた。


「お前達は一瞬たりとも気を抜いちゃダメでしょ…獲物は常に気を張って逃げ惑うものよ…捕食者の前ではね」


もうお仕舞だ。ここで殺られてしまう。もう体は恐怖から微塵も動けない。


攻撃を待ち構える中、目の前に手裏剣やクナイが投げ込まれる。

草忍は一度は怪訝そうな顔をしたものの、再び嫌らしい笑みを浮かべた。新たな獲物を見つけたと。


その場の全員は忍具が飛んできた方向を見定める。そこには腕を組み、こちらを見下ろすナルセの姿があった。


「いいわよナルセ!グッジョブ!」


サクラはサスケの危機から救ったナルセを褒め称える。だがナルセは草忍から目を離さず、口も開かない。いつものふざけたナルセじゃない



「フフ…久しぶりね、ナルセくん」



草忍から久しぶりという言葉が出たことにより、二人はナルセを見返す。ナルセは眉を寄せるばかりで言葉を返さない。

瞬身の術でサスケの傍に着地し、草忍を睨みつける。


「あんたとやり合うには分が悪すぎる。正直会いたくもなかった。サスケ、サクラ。合言葉は面倒だから覚えてない。とにかく一旦ここから退くぞ」


二人に声をかけて撤退を告げる。このままではオレ達は勝てない。無謀な挑戦は身を滅ぼす。ここは逃げるしか術がない。


「逃がすと思うの?」


無数の蛇が口寄せされオレ達に襲い掛かる。大きさは小物。チャクラを放出させて一気に吹き飛ばす。


クナイを構えて草忍に飛びかかる。チャクラを込めたクナイの切れ味は格段に上がったはず。避けられるも何度か攻撃を続ける。

一度大きく跳躍して距離をとる。すると男は口に手を突っ込み一振りの刀を取り出した。


「…草薙の剣か」


御名答と返事が返ってきて、刃物と刃物がぶつかり合う音がする。


リーチが違いすぎる。このままではつらいなと判断し、チャクラをさらにこめて草薙の剣を遠くへ弾く。

剣は宙を舞い、数十メートル離れた木の根元に突き刺さった。千紫万紅で剣に手出し出来なくする。


「逃げるぞ」


サスケの腕を取り、無理やり立たせて逃亡を謀る。

「行かせないわ」


草忍の長い舌がオレに巻きつく。突然のことで行動がとれなかった。そのままやつの目の前に引きずり出される。


「あなたのこと、あれから調べたのよ。おもしろいものを飼ってるのね」


男は見定めるようにオレを見てフフフと笑った。サスケとサクラは「飼っている」と聞いて何かわかったのか、顔を歪める。

気色悪い野郎だ。ぬめぬめした舌の感触が服越しでも伝わってくる。


「あなたも可哀そうね。いくら里のためとはいえ、何も知らない子供だった頃に化け物を封印されて。里の人間からは救世主だというのに迫害され、おまけにそんな格好までしているんですもの…」




「女の子なのに」




男がぼそりと呟いた言葉に二人は反応した。厄介事を落としてくれる。


「オレとてお前のことについて何も知らないわけではない。

なあ、かつて伝説の三忍と謳われた大蛇丸」


オレが男の名前を明かしたことにより、男、大蛇丸はアラアラと驚く。私も有名人になったものね、と言いながら右手の五本の指先に炎を灯す。

木 火 土 金 水

大蛇丸はオレの服をべりっと捲り、術式が書かれたオレの体を確認した。五行封印を防ぐことは出来なかったようだ。サスケに術を施しておいてよかった。


「いずれ迎えに来るわ


それじゃあ…おやすみなさい」


その言葉を最後に、オレは意識を闇に落とした。


蛇と蛙と狐
(オレは捕食者だろうか、獲物だろうか)
(それとも…)


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