閑話
イルカ先生と一楽なう。
只今メニューと格闘中。味噌にするか、醤油にするか、豚骨にするか、塩にするか。
もう夜も遅いし、あっさり系にするかな。醤油か、塩か。
「イルカ先生はもう決まったってば?」
「オレか?うーん、豚骨かな?」
ガッデム!醤油か塩であれば少し分けて貰おうと思ったのに!なぜそこで豚骨を選んだんだ、先生!
「注文は?」
「…塩で」
「イルカ先生、ラーメンが出来るまで可愛い教え子の悩みを聞いて欲しいってば」
「どうした?」
ラーメンが来るまでの暇つぶしに、とオレは口を開く。
「オレ、ほんとは忍者になりたいわけじゃないんだ。
守りたいものもないし、オレは自分が可愛い。アカデミーは三代目のじーさんが学費を出してくれたから卒業するけど、忍者にはなりたくないってば」
オレがそう言うとイルカ先生は困った顔をした。
そりゃそうだ。先生は忍者を養成する先生なんだから
「そう、だなあ。守りたいものなんてこれから見つけていけばいいんじゃないのか?焦って見つけるものじゃないだろう。
自分が可愛いなんて、そんなの皆そう思ってるさ。ナルセがそこまで落ち込むことじゃないだろう」
イルカ先生は少し悩んで、オレを安心させるような笑みを浮かべてそう言った。
違うんだ、先生
守りたいものはあったんだ
でも今は手が届かないだけなんだ
彼女は怒らないだろうか
オレも彼女も今は互いに手が届かない
ああ、でもきっと彼女なら「あたしのことなんて気にしないで、新しいものを見つけなさい」って言うだろうな
「…うん、イルカ先生。なんとなく解決できた。イルカ先生ってば腐っても先生だったんだね!」
「それ、誉めてないだろう…」
へいお待ち、と二皿のラーメンが出される。
眼鏡は曇っちゃうから懐にイン
「仕方ないから悩みを聞いてくれたお礼に先生に彼女ができない理由をおれが解明してやるってば。変化!」
もわもわと煙が上がる。
煙の中から出て来るのはオレの前世の姿。
前世の服装のままってわけにはいかないから、濃い緑の浴衣姿だ。
イルカ先生への特別講義の始まりだ。
「まず先生は基本的に女性に慣れてないってば。男は女性をさりげなく気遣うもんだ。例えばこういうときは割り箸を何気なく取ってあげる」
こんな感じにね、と割り箸を手渡す。
「食事の話題も必要ってば。ファッションの話とか、花の話とか。
女性の話を聞くときは相槌をすればいいってば。女性は話を聞いてもらえる相手に好感をもつ。時々『なるほど、これこれこういうことなんだね』って言えば尚良だってば」
イルカ先生はなるほどなるほどと頷く。その間も箸は進める。
「それからまだそこまで親しくない女性の目をじっと見つけるのはNGだってば」
「な、なぜだ!?目を見たほうが親近感を持てるんじゃないのか!?」
ナンセンスってば、先生
どこかのうちは君の口調を真似て言う。
「親しくない女性に対してはそれは真逆の行動になるんだ。女性は親しくない男性にじっと見つめられると、恐怖心を抱くのが心理学的に分かってる。
かと言って首筋や胸元を見るのも駄目だってば。女性は視線に敏感だから、セクハラと思われるのがオチだ。口元が一番ベストかな?」
ずるずると最後の一口を食べ終わる。ご馳走様でしたと手を合わせる。
「あとは先生の出会いの少なさかな?たまには合コンとかも必要だってば」
「なるほど、勉強になるな。ところでナルセはどうしてそんなに詳しいんだ?」
イルカ先生からの言葉に口角をゆるりと上げる。
「女はミステリアスな方が魅力的なのよ、先生」
どろん
変化を解いて暖簾を潜る。
「ラーメンご馳走様だってば!」
そのまま後ろを振り返らずに走り去る。
後日、アヤメさんから先生はしばらく顔が赤かったと聞いた。
先生もまだまだだね
一楽にて
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