星の瞬き | ナノ

  未知との遭遇


大蛇丸の隠れ家の一つで、かつての仲間達と邂逅を果たし、諸々の用事を済ませた後にナルセはまた暁のアジトに帰ることになった。


「それじゃあ。 追っての連絡はまた再不斬達をつかわせる」

「そうしてちょうだい。また会えるのを楽しみにしているわ」

「ほざけ」


思ってもいないことを。口にせずともナルセの言いたいことは大蛇丸に伝わっていた。彼は心外とでも言いたげに肩をすくませた。

先日完了した一尾の確保を皮切りに、他の人柱力の捕獲を開始したわけで、アジトに行けばその報告が待っている。


惜しむ別れもなく、ナルセは颯爽とその場を後にした。

大蛇丸もそうであるが、暁の情報収集能力は並大抵ではない。人柱力の顔、名前、さらには居場所は把握しているも同然である。

暁は実力者揃いだ。全ての尾獣が揃うのも時間の問題である。各国の隠れ里が強固な警戒網を敷くその前に、一気に畳み掛けるがよろしかろう。


ところで、各地に点在する、暁が利用するアジトの中心地が、雨隠れにあるそれである。五大国のうち三つに囲まれる雨隠れは地理的条件がよい。その他様々な理由があり、ここ雨隠れのアジトを使っている。

まさか堂々と表から出入りするわけにもいかないので、複雑な地下道をくぐり抜けて建物に入る。たがいつもなら暗くて足場が悪いからと迎えが来るのに、今日に限って誰も来ない。はて、と疑問に思いながらナルセは扉を開けた。


「んー!んんー!!」

「こいつッ!ちったぁ大人しくしろ!」

「んー!!」


目の前の光景に、ナルセは思わず帰宅の挨拶を忘れた。

猿轡を噛まされ、縄で自由を奪われた男が地面に放り投げられているではないか。ナルセは間抜けにもぽかんと口を開けた。


「あら、おかえりなさい。早かったのね」

「……ただいま。とりあえず、口のそれだけでも外してやったら…?」


珍しいナルセの恩情のために、男は猿轡のみから解放された。久しぶりの十分な酸素を、彼は思い切り吸い込んだ。


「お、前ら!こんなことしてただで済むと思うなよ!」

「んな状態で啖呵切ってんじゃねぇ!うん!」

「大人しくしろって言ってんだろ!」


男二人、詳しく名を挙げるならば暁の中でも活発なデイダラと飛段の二人組に組伏せられている男は、今できる精一杯の抵抗をした。だが無駄な足掻きであるのは当然で、ナルセはちっとも動揺しない。動揺するならば、男の存在そのものに対してである。

ナルセはまじまじと男の顔を眺めた。特に特徴的である顔の傷に注目しながら。


「今回は長いことここにいるの?」

「いや、そんなに長くは。でも大蛇丸から色々と情報をもらったから、その分析をしないと」

「そう。私もできるだけアジトにいるようにする。だから必要な時は呼んで」

「じゃあ一人で手が回らなくなったら、また手伝いをお願いに行くよ」

「無視すんじゃねぇ!」

「だからうるっせぇ!」


視線は自分の方を向いているが、まるで存在をないものにされているかのような会話に、男はどうにも辛抱できなかった。注目してくれと言うのも変だが、こうも蔑ろにされると癪に障るところもある。

ナルセは面倒くさそうに荷物を下ろしながら、椅子に腰かけた。

もう一度男を観察する。成人男性にしては幾ばくか身長が足りない。額当ての模様を確かめ、そして顔の傷をまた見つめた。


「三尾の人柱力、やぐらで間違いないな?」


男は顔をしかめた。


「……ああ」


そんなことはわかった上で誘拐したというのに、今さら何を確認するのか。男には訳がわからなかった。


「ついでに前代の水影で、間抜けにも幻術のせいで傀儡になってたチビ影か」

「ぶっ殺すぞ!!テメェもチビのくせに!!」

「まだ成長期なんですぅ。これから伸びるんですぅ」


一触即発かと思われた空気は一瞬にして拡散された。ガキの罵り合いだ。一歩引いて静観していたギャラリーは、関わり合いたくないと言わんばかりにさらにもう一歩引いた。

なんなのだこのガキは。やぐらはむしゃくしゃと、体が自由ならば頭をかきむしってしまいたかった。


ナルセが無言で、手を振って指示を出す。デイダラと飛段の二人はそれに戸惑ったが、やがて拘束していた縄をほどき、やぐらの上から退いた。

訳がわからない。よもや顔を見たかっただけだと、己を解放するわけでもあるまい。やぐらの胸中は疑念と戸惑いが混ぜこぜになっていた。

そのうちに彼にも椅子が用意された。簡単に逃げおおせるとも考えていない。少しの思考の後、彼は素直に腰を下ろした。その間にナルセは脚を組んだ。


「それでは三尾の人柱力、やぐら。交渉を始めようか」


ナルセの雰囲気ががらりと変わった。有無を言わせぬ語調に、やぐらは知らず知らずのうちに唾を呑んでいた。

仮にも里を率いていた身だ。それなりの修羅場をくぐってきた。だが今の緊迫感は、これまで経験してきたそれの中でも上位に位置する。

まだ子供だ。生意気なことをいうガキだ。だが偉そうなその態度が、どこか様になる。


「回りくどいのはなしにしよう。要求だけを述べる。オレ達に従え」

「断る」


やぐらはもちろん即行で断った。従え?冗談じゃない。やつらは犯罪者の集団だ。己の正義感も、そして自尊心も彼が屈することを許さなかった。


「答えた後だが、断られたらどうするつもりだったんだ?」


挑発気味にやぐらはナルセに問いかけた。


「やりようはいくらでもある。力ずくで従わせるか。あるいは霧隠れそのものを人質にするか。あるいは」


殺してその死体を操るか。

やぐらの挑発に乗ることなく、ナルセは冷徹な答えを返した。

嘘は言ってあるまい。なぜならそのどれもを実行する力があるだろうから。そしてそのうちのどれかを間違いなく実行に移すだろう。この場にいる暁が動くはずだ。

やぐらは冷や汗を流した。こんなものは交渉ではない。脅迫だ。要求が呑まれなければ何がなんでも我を通すだろう。

里を、そして里の者を大切に思う彼のことだ。彼は断れない。ナルセには部屋に入った瞬間から、この結末が見えていた。


「どうするべきか、理解できたみたいだな?」

「……クソッ」


やぐらが項垂れたのを見て、ナルセはほくそ笑んだ。

小南が一杯のお茶をナルセに用意した。ナルセはそれを受け取り、やぐらにも同じものを出された。


「飲むといい。怪しいものなど入ってはいない」


お茶の作用か何かか、安心する匂いがする。ナルセの喉が動くのを、やぐらは恨ましげに見た。


「約束は果たす。全てが終わったその時は、好きにするといい」

「お前を殺すと言ってもか?」


ほとんど自暴自棄にやぐらは返した。まともな答えが返ってくるとは思っていなかった。だが


「全て終わったならば、それもいいだろう」


やぐらは目を見開いた。訳がわからないと彼は思い続けた。だが本当に、全く彼女のことが理解できない。

自分も里のためならば、命を懸けられると自負する。それだけ里が大切だからだ。だが彼女もまた、あるもののために簡単に命を投げ出した。まるでこの程度、安いものだと言わんばかりに。

カチャリ。ナルセがティーカップを置いた。


「お互い、よい関係でいたいものだ。おかしなことがない限り、ここの者も危害を加えることがないことを約束しよう」


ナルセは立ち上がった。どうやら先に言った情報の整理のために退出するらしい。だがやぐらは呆然と考え込んでいて、何の反応もできなかった。

金の髪を揺らしながら、ナルセは歩いていった。

後にやぐらは知る。ナルセの目的と、その覚悟を。そしてそれが彼女を作り上げているそのものであることを。やぐらは後にナルセの考えに同意し、協力する者の一人となる。




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