擬態する蝶々
「胡蝶様!どちらにいらっしゃりますか胡蝶様!?胡蝶様っ、返事をなさってください!」
明朝サスケ達が寝惚けている状態から覚醒したのは、そんな胡蝶の甲高い叫び声によってであった。
「忍の方々!胡蝶様…いいえ、タテハはどこですか!?早く答えてください!」
「落ち着いてください。一体どうしたんですか?」
混乱に陥っている依頼人をとにかく落ち着かせなければ。
カカシが取り乱している胡蝶を宥めすかす間に一部屋に砦にいる忍達が集まった。しかし数が足りない。依頼人の一人であるタテハとヒナタ、それからリアナだ。
「カカシ先輩。こんなものが」
「…やられたな」
ヤマトが発見したのは何者かによる文。砦の入口前の木にクナイで留められていたのだと。
「『あげは一族の身柄は預かった。残りの二人の人質共々返して欲しくば胡蝶の身と交換せよ』」
「な、なんてこと…胡蝶様が攫われるなんて…!こうなったら一刻も早く私が!」
「お待ちください。脅迫状には場所の指定がされていません。どちらに行かれるおつもりで?」
カカシの言葉に立ち上がりかけていた胡蝶は動きを止めた。彼の言うことは正論だ。
「それに依頼内容を偽っていたことについても聞かせてもらう」サスケの台詞に胡蝶はグッと唇を噛み締めた。この場に攫われたリアナがいれば何のことだと言ったに違いない。
「依頼の折に嘘を通しましたことは謝罪いたします」
昨日までの言葉遣いを改めて、胡蝶と呼ばれていた女性はその場に土下座をした。
「あなたの本当の名前は?」
「胡蝶様の側近を務めております。キチョウ、と申します」
「ということはタテハさんが本物の胡蝶さんってわけか…」
こりゃ困った、とカカシは後ろ頭を掻く。誘拐犯が要求している人物が既に誘拐されてるんじゃ話にならない。
「でも胡蝶の身柄のみを要求する理由がないじゃん。あげは一族の秘術を求めてんのならあの男を誘拐した時点で手に入ったも同然だろ?」
「胡蝶、とは我ら一族の長に代々受け継がれる名にございます。あなた方で言う影、とでも言いましょうか。長には名を受け継ぐ時、胡蝶にのみ与えられる禁術がございます。それを狙ってのことかと」
成る程、合点がいったとカンクロウは言った。こうならぬよう身分を偽ったというのに、とキチョウはさらに唇を噛む。
「ヒナタとリアナまで攫ったのは忍の頭数を減らすためか」
「そこまでは犯人に直接聞いてみないとわからないね。しっかし手がかりが何もない状況となると…」
犯人の思惑に大体の予想はついたものの、手がかりがまるっきりなしだ。どう行動したものか…。
とにかく里に報告を、とカカシが忍犬を口寄せし、火影への伝令を頼んだ。そしてこのまま忍犬の嗅覚を使って追跡をするべきか否か。
そうカカシが迷っている時、場違いにもひらひらと一羽の蝶が舞った。蝶は明確な意図があるのか、差し出したキチョウの指に止まった。
「これは…!胡蝶様の使役している蝶です!」
タテハがなんらかの手段によりダイイング・メッセージならぬダイイング・バタフライを出したのだとすれば。これを追えば人質の居場所まで辿り着けるかもしれない。
それじゃ早速出発するとしましょうか、とのカカシの掛け声に木ノ葉の忍が立ち上がると同時に砂の三人も立ち上がった。
「私らも同盟国の忍として協力しよう」
「え?いやいや風影様は早いとこ里に帰った方がいいんじゃあ…」
「そもそも火影に用があってこの任務を受け持った。寄り道ぐらい問題はないだろう」
「そういうことなら、まあ…お願いする?」
「オレに聞くな」
眉根を寄せたサスケを見て、カカシは「ならお願いしちゃおっかな?」とお得意の読めない表情で頼み込んだ。
「大丈夫ですよ、キチョウさん。タテハさんは私達が絶対に助けますから」
「どうかよろしくお願いします…」
「んじゃまあ行きますか」
トラブル発生
(何事もなく、ってのはならないわけね)
(あのリアナだから、って言ってあげましょうか?カカシ先生)
(……遠慮しとく)
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