星の瞬き | ナノ

  進むは茨の道


この忍寺の僧は意外と頭を剃ってない人が多い。お坊さんと言えば坊主、みたいな先入観があるから地味に驚きの対象だったりする。そして顔が濃、いや今のはなしで。

忍僧さん達も話せば結構趣味の合う人がいる。修行僧、なんて言うくらいだから堅物かと思いきや割と気さくな人も少なくはないのだから面白い。

一応客人っていうポジションにはいるわけだけど、お願いすれば組手の相手も引き受けてくれるし。地陸さんから始まりここには良い人しかいないのか…?

突然押しかけたオレにこれほどまでに親切にしてくれるなんて。オレ涙ちょちょぎれそう。


「ここは居心地がいいな」

「だな。人は親切だし、空気は綺麗だし、なにより茶が美味い」


いい休暇だよ、まったく。膝で丸まってる九喇痲も毒気を抜かれて呑気に欠伸までする始末だ。和むねぇ。

む。今日の茶請けはどら焼きか。ご丁寧に九喇痲の分も用意されてらぁ。後で守鶴にも餌与えとかないと。ペットの世話は飼い主の責任、ってな。


最近は心安らぐ時間がどうしても少なくなりがちだからな。こういう暇は貴重だ。向かいの地陸さんの笑顔に今日の心も穏やかに保たれる。

大抵オレのお世話をしてくれるのは地陸さんである。美味しいお茶を貰える身としては今の状況は万々歳。


やれこの寺に来た目的も、もう大体晴らせた。約八割程ってところか。それじゃ仕上げといきますか。湯呑みを置いて読んでいる途中だった書物に目を戻し、そしてまた上げた。

…異様な静寂。それこそ戦場に似た空気の。同様に異変を感じ取った地陸さんとアイコンタクトを取り合った直後、大きく床が揺れた。「何事!?」続いて響く警戒音の鐘の音。


「地陸様!襲撃者です!額当てを着けていることからどこかの里の忍かとは思われますが」

「寺の中には一歩も入れておらんな?…よし。何としても門前で食い止めるのだ。私も出る」

「地陸さん、オレも」

「なりません」


なぜ?犠牲を少なくして済むのであればそうするべきだ。それともオレが部外者だから手を出すなと言いたいのか。


「襲撃者の素性はまだ割れていません。あなたがここにいることを容易に悟らせるべきではない」

「なら一人残らずひっ捕らえればいいだけの話!」

「そのような無謀な行為はするべきではないのでは?」


ぐっと押し黙る。

確かに地陸さんの言う通りだ。決して敵側であろうとそうでなかろうと、味方でない者にはオレの行動の一片も知らしめるべきではない。そうなった瞬間、全ての計画がなし崩しになる可能性だってある。何事も最悪のパターンを考えて行動するべきだ。

けれども万が一のことだってある。地陸さんの強さは、ここ何日か組手の相手をしてもらえているのだから十分わかっている。

だがこの襲撃者がそれ以上の実力の持ち主だったなら?そう考えると考えるだけ、不安が募るのだ。


不安に苛まれて冷や汗を流すオレに、地陸さんは安心させるような笑みを浮かべた。


「わたくし共はあなたに最大限の協力を申し出ました。ですからわたくし共を思ってくださるのならば、どうかあなたの思い描く未来を作り上げてください」


ああ、そんな自分を傷つけないための言葉を吐くくらいなら、いっそ頼りにしてくれた方がいいのに。

首に走った衝撃により薄れゆく視界に映る地陸さんと修行僧の方は、最後まで笑顔のままだった。


修羅の道
(また一つ、荷物が増える)


prev / next

[ back to contents | bookmark ]


×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -