星の瞬き | ナノ

  アトラス。その背に何を負う


火ノ寺。火の国に存在する、由緒正しき寺院である。

歴史が深い故に、そこには重要な文献も保管されている。今回の目的はそれ。そして険しい山道を登った先にその忍寺はある。


「つうか、山道っ、長くねっ!?」


果てしなく続く山道は未だ終わりが見えない。もはや試練の一種だ。


「無駄口を叩く暇があるなら足を動かせ」

「この程度でへばるたぁ、修業不足かァ?」

「いやお前らのせいだろ!?」


肩に狐を背負い、腕に狸を抱えて山登りをするやつがどこにいる。ここにいるとかいうツッコミはいらん。くそっ、重てぇ…!なんで今日に限って引きこもってねぇんだよ、こいつら。

山間に吹く風だけが幸いというべきか、暑さで体力を奪われることはない。ただ道が険しく、かつ長すぎるのだ。ふざけんな客人用にロープウェイぐらい設置しとけ。


「よし。やっと着い、てない」


山道の次は石畳の階段。先はまだまだ長い。地面に膝をついたオレを慰めるようにペット二匹が尻尾で背を撫でた。

この先火ノ寺じゃねぇんだよ。看板立てる前にマジロープウェイ造っとけや。



どうにかして階段を登りきったがしかし、あまりのつらさにぜいぜいと呼吸困難を起こしかけていた。

まだまだ修行不足だな、ってお前ら抱えてなかったらもっと楽に登れてたっつーの!背を丸めて呼吸を繰り返す姿はそんなに滑稽か。え?答えてみろこのペットども。

呼吸を整えるオレの前にある重厚な門から、ここの僧であろう人がやって来た。


「火ノ寺へようこそおいでなさった。私はこの寺の僧侶、地陸と申す」

「ども…ナルセ、といいます……ゲホッ」

「……どうぞ中へ」


慣れない道だから疲れたでしょう、と言って通された部屋で冷茶を頂いた。ありがたし。親切すぎて涙出そうだわ…。

出されたお茶を口いっぱいに含み、その味に硬直してしまった。


「どうかされましたか?」

「いや……あまりの美味さに…」

「それはよかった。茶を汲んだ側にすれば朗報にしかなりえませんな」


ははは、と笑う地陸さんは何と言うか…器が大きな人と言うかこうある意味魅力のある人と言うか。茶も美味いし。

…ごほん。横道に逸れた。とっとと要件に移るとしよう。懐から三代目のじーさんから預かった封筒を差し出した。


「火ノ寺は長き歴史を有しています。この寺院に限らず、世俗のことに関した蔵書も数多く眠っていることでしょう。突然お訪ねしました理由は、それらを拝見したく参った所存にございます」

「話は三代目火影様より伺っております。できる限りの協力を致しましょう」


それと、と地陸さんは言葉を区切った。


「堅苦しい言葉遣いは気を張りましょう。どうぞ肩の力を抜いてくだされ」

「ではお言葉に甘えて、お互いにそういうのはなし、ってことで」

「その方が年相応に見えますな」


やっぱ地陸さん大人の魅力があるわ。


*****


数学のテストでいい点を取るためにはどうすればよいか。大抵の人は問題集をやり込むと思う。ではやり込むのはなぜか。問題の形式、傾向を知るためである。

物事の多くにはパターンというものが存在する。戦争においても同様だ。

パターン、すなわち癖がある。時たま見たこともないような難関な問題が出題されるように、奇抜な戦術を用いる者もいるが、それは例外というものだ。


相手の癖を知っておけば少しでも有利に働く。無駄な行為にはなりえないと知っているからこそ、現在火ノ寺の蔵書、というよりも歴史書を読み漁っている。何分その相手というものが特殊すぎるため、使える情報なんて限りなく0に近いのだが。

けれどこれも全て勝利のため。オレの覚悟への報いのため。オレなぞのために命を懸けてくれた部下…友のため。それに負け戦なんてまっぴらごめんなんでな。


人には戦わねばならぬ時が必ずある。

それは何かを守る時や恨みを晴らす時、誇りを守る時、復讐を成し遂げる時。その時に勝つことができねばどんな戦いであっても意味のないものとなる。

そうであるから、絶対に勝たねばならぬ時はどんな手段でも使うべきだ。どんなに汚い手であっても。そのためならば利用できるものならば何でも使って見せる。


にしても参考資料が多いな。いや多いに越したことはないんだが。それだけ作り話もまざってくる。影分身も動員して文献を読み漁るが、はてさてこの中のどれ程が正しい情報なのか。見極めも難しい。


「調子はどうですか」

「やあ地陸さん、どうも。おっ!地陸さんのお茶じゃん!こりゃ一旦休憩を挟まなきゃ」


地陸さんのお茶は最高だからな。影分身を解除して、読んでいた書物に栞代わりの付箋を貼り付けた。ちらり、と地陸さんがその資料に目を向けた。


「いやー!地陸さんのお茶は本当に美味い!」

「それはそれは……。…あなたは恐ろしくはないのですか?」

「……何が?」

「とてつもなく大きな何かと戦うつもりなのでしょう。いや、戦っている、と言うべきか」


ぷっ。シリアスな会話とはわかっていても噴き出してしまった。


「相手が相手だ。怖いに決まってる」


この先に足場はないのかもしれない。それでも、進まなくてはいけないから。

オレだってオレなりの決心をして里を出た。それであれば、もう先へ進むしかない。立ち止まることは許されないから。


「強いですね」

「オレが?またまたぁ!オレは弱い部類ですって。強いのはオレの仲間の方」

「やはりお強い。そして賢明だ。その肩に背負っているものさえもきちんとわかっておられる」


突然どうしたのか。まあ彼は彼で独りでに納得したようであるし、特に口を挟むこともあるまい。

にしてもこの茶請けの菓子、美味いな。このお茶も。


アトラス。どうか押し潰されぬように
(ところで地陸さん、この菓子はどこで買ったんです?)
(ああ、それはうちの者の手作りです)
(なん、だと…!?手作りでこのプロ並みの美味さ…!)


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