星の瞬き | ナノ

  とっておき@


走る。風を切る。曲がる。かける。

S級犯罪者が鬼ごっこ擬きをする話など聞いたことがない。そんな諸君、朗報だ。現在進行形でその鬼ごっこ擬きが行われている。


「意識がない人間って重っ…!サソリ、パス!」

「断る。それより走れ」


本当に、何かがおかしいでしょ!サクラは二人の背を追いかけながら思った。

緊迫感が足りない。いや、戦闘に入ると余裕がなくなるのだけれど、それ以外の場面であるとその通りだ。


暗いはずの抜け穴に光が差した。「出口だ」狐の面が前を見つめながら言う。阻止できなかったか、とチヨは地団駄を踏みたい気分に駆られた。

抜け穴の先は森。この辺り一帯は森に囲まれているから行き着く先としては疑問はない。くるりと振り返った二人に対し、警戒態勢を取る。


「面倒だな。さっさとコレ使うか」


サソリが印を結ぶと三代目の口が開いた。何事かと凝視していると、その口から黒い粒が溢れてくる。


「やはりその傀儡、三代目の術を…」

「久しぶりだろ、この術で三代目風影は最強と謳われたんだからな。二人ともグチャグチャだぜ」


驚きの表情を見せるチヨと笑ったサソリ。一体あれは何、とサクラはチヨに問う。


「砂隠れで最も恐れられた武器…“砂鉄”じゃ」


かつての守鶴の所有者の術を応用し、三代目が自ら開発した術だ。あらゆる形状に砂鉄を変化させ、状況に応じて武器を作り出す。三代目は練り込んだチャクラを磁力に変えることのできる特殊な体質であった。それと同じことをあの三代目の傀儡も使えるようである。

人傀儡の特徴は生前の姿と同じというだけではない。サソリにしか作ることのできない人傀儡は生前のチャクラを宿したままに作られ、そしてそれにより生前の術を使うことができる。それが人傀儡の最大の利点である。


「サクラ、お前はここから逃げろ!後はワシ一人でやる。これは想定外過ぎる。アレが出た以上、お前では無理じゃ」


でも、とサクラが言い淀んだ時、サソリが動いた。


「遅いんだよ!」


【砂鉄時雨】。砂鉄の粒が二人を襲う。母がサクラを掴んで退避した。だがチヨバアは。

砂煙が晴れた中、サソリが何かに気付いた。チヨの前に父が立ち塞がっている。父は両手を前に掲げ、チャクラで盾を作っていた。


「少しはイジってるじゃねーか。チャクラの盾とはな…オレが遊んでた頃よりはグレードアップしてるようだな」


息切れを起こしながらチヨバアは父の盾を仕舞い込もうとする。しかしもう少しとのところで関節が軋み、動かなくなった。


「この術は防ぐんじゃなく、かわさないとダメだって知ってんだろ?小娘を逃がすだけで手一杯だったか?クク…」


砂鉄により父の体は身動きが取れなくなっていた。父の体中に砂鉄を潜り込ませたらしい。もう父は使えないだろう。


「さて、今度は二人を狙って一斉に攻撃する。確実に仕留めるため、殺傷能力重視の形状にしてな」


砂鉄が槍の形をとる。空中でそれぞれ二人に狙いを定める。一つの傀儡では二人を守りきれない。

三代目の胸部に仕込まれたチャクラ蔵からチャクラが放出される。さらにスピードを増して二人に襲いかかった。煙が晴れた中、サクラの前には母がチャクラの盾で三代目の攻撃をガードしていた。サクラがチヨバアはと目を向ける。


「腕とはいえ、己の体のカラクリ化。傀儡使いという人種同士、考えることも同じだな」


サソリと同様、チヨも己の腕もチャクラの盾に改造していた。何とか危機を免れる。しかしもう腕は使えない。サクラがチヨに目を向けた時、母の体が軋んだ。もう父も、母も、チヨ自身の腕も使えない。


「天下の傀儡使いも傀儡がなけりゃただの人か」


チヨは使い物にならなくなった右腕を取り外した。三代目が再度動く。次に砂鉄が作り出したのはピラミッド型と直方体の形をした巨大なオブジェのようなものであった。


「ワシともあろう者が、さてこの状況、どうしたものか。…サクラ、ともかくお前は逃げろ」


チヨの声にサクラは反応しない。ぼうと何か考えているようであった。


「(逃げる…?)」


チヨバア様を置いて?自分一人で?いや、今の自分にでもできることがあるはずである。

父と母に目を向けた。怯える心を抑えるように手を握り締めて唇を噛んだ。


「チヨバア様!私を使ってください」


サクラは庇うようにチヨの前に出た。

今の自分にできることはチヨの傀儡になって戦うことだ。生身の自分であれば砂鉄は関係ない。


「…ワシは今片腕じゃ。さっきほどのサポートはできんぞ」

「大丈夫です。確かに私には傀儡みたいに立派な武器は仕込んでありませんが、師匠譲りの負けん気が嫌というほど仕込んでおりますから!」


真っ直ぐにそう言ったサクラには綱手の面影が重なった。ふ、と笑ってチヨはサクラの体にチャクラ糸をつなげた。


「三代目の能力は磁力じゃ。よって鉄や鋼でできた武器は効かぬ」

「上等!素手で戦うのも師匠譲りです!」


サクラは口角を上げながら拳を片手に打ち付けた。


「……あはは」




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