星の瞬き | ナノ

  赤き天才傀儡師B


「写輪眼のカカシ、うちはサスケ。あいつらがサソリの旦那の怒りを買ってないといいな?…うん」


デイダラはサクラとチヨがいるであろう方向を見ながら言った。会話に禁句が出ていないかもしれない。けれど旦那の地雷を踏んだらどうなることか…。デイダラは己の体験を思い出して体を震わせた。


「オイラ達暁のメンバーの大半は木ノ葉に恨みを抱いてるぜ?…うん。サソリの旦那やリーダー、イタチは特にだ」


イタチ。その名にまたサスケが反応した。デイダラもそれに気付くが、気にせずに言葉を続ける。


「かくいうオイラもその内の一人だ!」


ビリ。さっきとはまた違う殺気がサスケとカカシの肌を傷めつける。サソリの地雷はデイダラにとってもまた地雷だったのだ。自分でも驚くほどの怒りに、デイダラは自嘲した。


「テメェらはあいつの心に大きな傷をつけやがった。癒えることのない傷を、だ」


*****


家を訪ねると、あいつはいつも薄暗い部屋に独りでいた。


「やあ。いらっしゃい、サソリ」


また来たのか、仕方ないなって笑いながら、あいつはいつも快く自分を迎え入れた。

最初は自分の素顔を見られたから殺すつもりで。次は余計な真似さえされなければ殺すのは止めにして、監視のつもりで。その次は…徐々に訪問の理由はすげ替わっていった。


あいつの反応は観察するのにうってつけの面白さで、見た目の年齢はかけ離れているが、歳の近い妹ができたようだった。正直に言うと…楽しかった、のかもしれない。

だが、その楽しさもいつか奪われてしまうかもしれなかった。消えてしまうのは唐突だ。儚いその存在を失うことが不安だった。認めるのが不快で、決してその感情を口に出したことはなかったが。


深夜と言ってもいい夜遅くに家を訪ねると、あいつはいなかった。もしかしてもう寝てるかもしれないと寝室を覗いたが、そこにもいなかった。一体どこに、と窓の外を眺めるとあいつはそこにいた。

月に照らされたあいつの存在は蜻蛉のようであった。傍に行ってようやくあいつの頬が赤く腫らしているのがわかった。


「湿布は?」

「化け狐には売れない、ってさ」


困ったもんだよね、とあいつは苦笑した。それだけで済ますことのできるあいつが不思議でたまらなかった。



「感謝される覚えはあれど、恨まれる筋合いはないあいつを傷つけたのはテメェら木ノ葉の人間だ。傍にいておきながら何もしなかったテメェらも同罪なんだよ!」


苛立ちを僅かに露わにすることはあったが、ここに来て初めてサソリの本当の怒りを目にした。

なぜサソリがナルセのことに関してこれほどまでに激怒するのか、その理由をサクラが知るわけがないが、とにかく禁断領域に足を入れてしまったことにはわかった。


「サソリ、もう止せ。それ以上言うとオレがその口を塞ぐぞ」


狐の面の雰囲気ががらりと変わった。一瞬でサクラは理解する。あの狐の面は態度こそ調子に乗っているが、彼は……サソリよりも強い。

狐の面の言葉に我を取り戻したサソリは短く息を吐いて、チヨとサクラに目線を戻した。


「無駄話もここらで終いにして…もうやるか」


サソリが三代目を動かした。チヨバアがサクラを引き寄せるが、三代目のスピードは速い。すぐに追いつかれてしまった。

三代目の袖から数本もの得物が飛び出す。刃物には毒が塗られている。ヒルコの尾でかろうじて防げたが、尾はばらばらになってしまった。

サソリはならば、と今度は三代目の左腕を前に出す。さらに動かすとその腕は展開した。何かの術式が書かれているその腕。


「いかん!」

「ソォラァ!!」


サソリの合図とともに三代目風影の腕が増殖し、サクラに襲いかかる。反応が遅れたサクラはチヨバアの援護も空しく腕に飲み込まれた。

チヨバアがサクラの名前を叫ぶ。サソリは仕損じたと舌打ちをした。サクラは身をよじり、何とか腕を避けきっていた。危機一髪といったところか。助かったと安堵の息をつく。

チヨバアがサクラの体を腕の中から引き出したと同時に筒が姿を見せた。


「いかん!サクラ、息を止めろ!」


毒々しい色の煙がサクラの周囲に噴出される。見事にサクラはその中に飲み込まれる。どうにか毒を吸い込まずにいた。

チヨバアが引き摺り出そうとするが、素早くサソリが動く。ロープが飛び出した。クナイ付きであるそれにサクラの体は捕縛され、動かない。


「(誓ったんだ…今度は私が…二人を、守るって……私は、こんなところでは…)」


毒煙は晴れない。追加の仕込みの毒煙も発射された。チヨバアがサクラを助けようと走り出した。サクラはポーチを探って目当てのものを掴みとる。


「(こんなところで…死ねない!)」


途端爆発が起こった。爆風により毒煙は晴れる。サクラの体は中に放り出された。ロープも自然と切れる。

「サクラ!しっかりせえサクラ!」チヨバアがサクラの体を受け止め、懸命に声をかけ続ける。

「へぇ…やるじゃねェか」サソリの言葉に狐の面はうすらと笑った。


チヨバアがサクラの容体を診る。サクラは息をしていなかった。チヨバアがサクラの背をとんと叩くとサクラは咳き込み、やっと息をし始めた。

サクラは毒煙を吹き飛ばすために起爆札を爆発させたのだ。しかも罠から抜けるために自分ごと。

サクラはふらふらと立ち上がり、サソリを睨みながら叫んだ。


「アンタは…アンタは私が捕まえる!手足が吹っ飛ぼうが、毒を食らって動けなくなろうが、必ず捕まえる!どんなに抵抗されようと、どんな手を使われても、私が絶対大蛇丸の事を、そしてナルセの事を吐かせてやる!いいか!」


だが言い終わらない内にサソリが動いた。サクラに向けてクナイが飛ぶ。

しかしサクラにそれが届くことはなかった。何かに弾かれる音がする。


「女が喋ってる時は、男は静かに聞いてやるもんじゃ」


父と母。その存在を忘れていた、とサソリはわざとらしく独り言つ。


「だが今さらそんなので何しようってんだ。オレの造った傀儡だ。手の内はバレバレだぜ、くらだねェ」


はたしてそうか、とチヨバアは言った。そしてもう何も言わずに二体を動かす。父と母の手を合わせ、ワイヤーをつなげた。


二体が前に動き出す。それに反応したサソリも三代目の増殖した腕を動かすが、父と母のワイヤーにより分断されていく。

サソリは傀儡の左の大量の腕を切断した。そのまま鎌と太刀を取り出す。父はクナイを大量に吊り下げた武器を、母は刀を取り出した。

チヨバアとサソリの傀儡捌きが競われる。どちらも目に追うことのできない速さで武器を振り回す。「す、すごい…」思わずサクラが技量に感嘆の声を上げた。やがで両者の武器は刃こぼれがおこり、使い物になれなくなっていた。


「流石にこの場じゃここまでが限界か…」


余り暴れては壁が崩れる。あの暁が岩に押し潰されて死んだ、などとお笑い草だ。


「おい。外まではあとどれくらいだ」

「もっと聞き方ってもんがあるんじゃねぇの?」


ま、オレもただ観戦していたわけではないけど。狐の面は言った。戦闘に参加しない代わりに表までの距離を測っていたようだ。


「出口まであと上へ30メートル、西へ500メートル」


つまりもうすぐで外へ出られる。ならここから走って逃げ、外に出ればもっと思う存分に暴れられる。つまりそれは、ここからサソリ達に逃亡を許すとサクラとチヨにとっては不利となること。


永久の縁
(腐れ縁は離れず)


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