輝夜
夜が更ける。月が雲に隠れながらも光り輝いていた。
ずっと走り続けていたから喉が渇いた。水で喉を潤せば、背後に誰かの気配を感じた。多由也はオレの後ろを目を見開かせて見て、口をパクパクさせている。
「な…何でお前が…、君麻呂」
多由也が青ざめた顔で背後の人物の名前を呼んだ。左近の顔も青くなっている。枝に立ち止まってゆったりと振り返って少年を見る。
「遅い、遅すぎるよ。元“五人衆”ともあろう者達が…」
白髪に、麻呂眉、多由也達と似通った服。二人はこの君麻呂という少年にビクビクと怯えている。どうやらこの少年が恐ろしい様子。
言葉から察するにこの時点で間に合わなかったようだ。「ざまぁねえの」と呟いたらじとりと睨まれた。元々敵対してたんだからそういう反応されてもよ…
「どうしてお前が…。体は…お前の体はもう…」
「僕はもはや肉体で動いてはいない…精神の力だ」
成る程確かに、と君麻呂という人物を頭の上から足の先までじろじろと見る。肌は青白いし、唇は青紫色で若干かさついている。衰弱している証拠だ。
だがそんな話はどうでもいい、と君麻呂は話を区切る。
「大蛇丸様の次なる器は僕が届ける」
「おーおーまったく。お前らのその敬愛っぷりには感心するね」
「大蛇丸様は僕の全てだ」
小馬鹿にした台詞にムッとして君麻呂が言い返した。多由也と左近も口を動かさないがそう思っているようだ。ムキになっちゃって、と茶化すが否定できないところが苦しいね。相手の名前を変えるとオレの台詞になっちまう。
まだ十五ほどだというのにこんなにも簡単に命を懸けられるとは…。この世の理不尽さが窺えるな。そして「ふぅん」と独り言ちに呟いた。
「いいね、面白い!オレはお前が存在することを許そう!」
病気なんかで失うなんて勿体無いやつだろう。三人はくるっと目を丸くした。君麻呂の背後にオレンジの毛色が見えて、さらにニタリと口元が歪む。
オレ程度の医療忍術では効かないだろう。なら取れる手は一つ。
「かぐや一族って、もういないんだろ?」
「…ああ、僕以外を除いて」
「かぐや一族の能力は、骨、だったっけ?」
こんな感じにさ、と君麻呂の返事を待たずに右の腕から尖った骨を突き出した。ありえない、と君麻呂の目がさらに開かれる。
驚きは隙。これが狙い。反応させる間もなくその腕をずぶりと体に突き刺した。
「なッ!」
「教えてやるよ。これが大蛇丸がオレに目をつけた理由」
血継限界の一族でもなければ人体改造をしてもいない。それであるのに血継限界を使うことのできる奇怪な能力を有している。さらには九尾の人柱力であり、相当の実力を持った忍。大蛇丸が目をつけるのも当然であった。
君麻呂が元から体を蝕んでいる病と傷の痛みで血を吐いた。
「安心しな、殺す気はない。オレはお前が生きることを許してるんだからよ」
月影を背にナルセは愉快そうに口角を上げた。
月は自分の色
(これがオレの【力】)
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