親睦A
一日目はアカデミーの見学だけで終了だ。到着した時間が時間だったので、今日回れるところはアカデミーだけだった、と。
宿は木ノ葉側で準備した。それなりにランクのある旅館。里まで来るのに疲れているでしょう、ゆっくり休んでください、とカカシ先生はあちらさんに告げる。
「じゃ、またあし「お前はここに泊まらないのか?」たァ!?」
去ろうと思ったのに我愛羅に腕を引かれて態勢を崩す。何を言うのだコイツは。オレにはオレの家ってもんがあるんだ。そんな可愛い顔で頼まれてもオレは帰るからな。泊まる場所に困ってなど「いーんじゃない?」
「すみませんがこの子達置いていきますね。部屋は私が手配しておきます。じゃお前ら、失礼しちゃダメだからネ」
なんてカカシ先生はほざいてそそくさと一人で帰って行った。オレ達七班の三人はカカシ先生の手際の速さに呆然とその場に取り残される。
「……苦労してるじゃん」
頼むからそんな憐れんだ目で見ないでくれ
*****
わざわざ用意していた部屋をキャンセルして、大部屋へと足を入れる。バキ上忍は別に部屋を取ったそうで、ここはオレ達子供だけってわけだ。
豪華な食事も食べ終えたことで、暇潰しとして部屋に備えられた本に目を通す。旅館で繰り広げられた殺人事件を探偵忍者が解決するという推理小説のようだが、置かれている場所がシュールだ。
「なあ、ナルセに何かあったのか…?」
コソコソとテマリがサクラに小声で尋ねた。何が、とは明確に言えないがナルセは前回会った時と様子が少し違った。
何やら髪を伸ばしているようだ。前はなかった簪が後頭で縛られた髪に差されている。暗い色合いの服装を好んでいるようではあるが、今着ている服は全身真っ黒である。雰囲気も、どことなく変わっていた。
「……知り合いが亡くなったらしくて」
「忍の世界にはよくあることだ」
サスケとサクラにもカナデの悲報は耳に入っていた。確かにその日からナルセの様子がおかしくなったのは事実だ。おかしい、と言っても時たま何かぼぅと考え事をしているようだろうことだけで。けれどいくら二人といえどナルセの口から何か聞くことはなかった。
「さて、この宿には評判のいい大浴場がある。入ってきたらどうだ?」
一人離れた場所にいたナルセが部屋にいる全員に提案した。それはいい、と皆入浴の支度をする。
「…?ナルセも早く準備するじゃんか?」
一人本を持ったまま準備をしないナルセを訝しんでカンクロウが声をかけた。一瞬第七班のメンバーの顔が歪む。
「…いや、オレは部屋にあるユニットバスを使う。オレに構わないで行ってくれ」
「しかし…」
「ナルセがそう言ってるんだし…い、行きましょう!」
「早くしないと風呂が閉まるぞ」
半ば無理矢理部屋を追い出してナルセは一人部屋に残った。
*****
旅館の大浴場はナルセの言った通り、良い評判が流れるのも当然だと思うほど寛げる空間だった。……一緒に湯に浸かっている人によるが。
サスケも我愛羅も基本ポーカーフェイス。サスケはまだ感情を表情に出す方ではあるが、二人とも活発な方ではない。どちらかと言えばクールだ。要するに、だ。
「(……き、気まずい)」
無表情な男二人と黙ったまま並んでいるのは中々にシュールだ。そしてその間に挟まれているカンクロウは湯の温度のせいのものとは別の汗がダラダラと流れていた。
「うちはサスケ。お前はナルセと長い付き合いのようだな」
「それがどうした」
「いや、少し気になっただけだ」
ぱしゃりと湯の音を立ててサスケは垂れてきた前髪を掻き上げる。ピリと緊張が走った。
「いくらテメェが出しゃばろうと、オレと同じ立ち位置には立てない。時間の長さが証明する」
「時間など関係するものか。そもそもオレはお前の立ち位置に興味などない。さらに上を手に入れるだけだ」
「ハッ!テメェにそれができるだろうかな」
なぜ寛ぐために来た風呂で一人の人間を争わなければならない。間のカンクロウの顔面は蒼白だった。せめてそういうことは自分のいない場所でして欲しいものだ。
誰か助けてくれ…!カンクロウは切実にそう願った。
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