星の瞬き | ナノ

  黒の記憶


彼女と初めて出会ったのは雨の中だった。


――どうしたの、あなた。こんな雨の中倒れてるなんて

――あなたは、誰…?

――見たところ私と同じようね。…いらっしゃい、体を温めましょう


彼女は山の中の小屋に一人で住んでいた。人影などはない。ただそこに孤立していた。いや今思えば彼女があの時代に小屋というものを建てていたことが、異質だったからかもしれない。


――寂しかったでしょうね、一人で彷徨って。もしかして噂のカナデというのはあなたのことなのかしら?

――……そうだね、ボクがそのカナデ。あなたこそ、ここに一人じゃないか。ここはどこなんだ

――見ての通りただの山よ。人はまだここを見つけてないんじゃないかしら?☆


その時のボクは、あることに巻き込まれ、ある人から逃げ回っていた。彼女はそれを知った上でボクを匿い、共にその山で過ごすことを許可した。一人で過ごすのは寂しいから、と言っていた気がしたけど、ボクのことを憐れんでそう言ったのだと思う。


――あんたバカね

――突然何?それにあなたには言われたくないね

――まあ☆それはどういうことかしら?


彼女は陽気な人だった。いや、本当は陽気なように見せていたのかもしれない。きっとそうだ。時折彼女は悲しげな表情をしているのをボクは見たから。

きっと、あの山にボクと二人しかいないことに寂しさを感じていたのだろう。一人ではなくなっても、たった二人だから。けれど彼女は努めてそんなことを感じさせまいとさせていた。それが彼女だった。


ある日のことだ。山のふもとに村ができた。


――カナデ!見て人よ!

――そんなに騒ぐほどのものかな

――私の力はあなたと違って人がいないと使えないんだから☆それに、私は人が好きだから


あの時の彼女は本当に嬉しそうだった。輝くほどの笑みを浮かべていた。

ふもとに村ができて、彼女はよくその村の様子を覗き見していた。人が増える様を、家が建つ様を、田を作る様を。そうしてふもとには立派な村ができた。


――いいわねぇ、なんだか一つになってる感じがして

――ただ人が群がってるだけじゃないか

――捻くれてるんだからぁ☆


彼女は人が好きだった。ボクは人が嫌いだった。だから、彼女が言うことをその時ボクは理解できなかった。


――ねぇ、一つの世界っていいと思わない?何て言えばいいのかしら…美しい、そう美しいのよ

――そうかな

――そうよ。ええきっとそう


人が嫌いではあったけれど、彼女が笑うのを見るのは嫌いではなかった。

しかし人というものはいつ何時であっても過ちを犯す。それはどんなことをしても避けられない、いわば道理のようなものだ。


――戦争が始まったわ…

――人が群がれば争いが起こるのは当然だろう。人間に幻想を抱くのは間違っている

――そんなことない。そんなことないわ、きっと…


その日からだった。彼女の顔から笑顔が消えたのは。


――戦場で妖術が使われていたよ


時々、彼女が会わせてくれた人ではなく、ボクらのようなものでもない存在が使う術。それを人間が使っていた。人間があの力を自力で得ることは不可能だ。禁忌を犯さない限り。


――そう…とうとう手を出してしまったのね

――もうこの世界の人間は駄目さ。絶対に将来この歴史を忘れて、罪を犯したことも伝えられないのさ。そうして世界は崩壊していく。ボクはそんな光景を何度も見てきた

――いいえ、誤りはいつか正されるのよ…



そうして時が経ち、彼女の元に一つの知らせが届いた。


――罪人がこの世界に逃げ込んできたという知らせが来たわ。あなたもよく知っている人ね

――!?そんな!なんでここに!

――目的はあなたかしら。あなたの能力は利用価値があるもの


思い出すのも忌まわしい、あの日の記憶。出来事が頭の中に蘇り、恐怖感が体を襲う。あんなことがまた起こって堪るものか。この世界はもう終わるんだ。それならいっそ、自分達の身を守る方が優先的だ。そう、瞬時に思った。


――…に、逃げよう!ボクなら確実に!

――いいえ、私は戦いに行くわ

――どうして!?あなたの力は言っては何だけど、ボクよりも使い勝手が悪い!


それではみすみす死にに行くようなものだ。ボクははっきりとその時示した。けれど彼女もまた、はっきりと拒絶の意を見せた。


――人の過ちは人が、私達の過ちは私達が正さなくてはいけないのよ。この世界は正されるわ。これから暗い時代がやって来る。けれど、明るい未来が絶対に待っているわ。一つの世界が、よ。きっと誰かの手によって、この世界は改変されるわ

――カナデ、あなたはあなたの望む世界を生きて。私はそう祈るわ


それが、彼女がボクに当てた最後の言葉だった。


「カーナデ☆」


ボクの名前をその明るい声で読んでくれる彼女はもういない。もう会えない。あれが最後だった。だからボクは、彼女の意思を受け継ぐ。


「君の祈りのために、ボクは…君の祈りの先がボクの望む世界」



遥か昔の想い人
(それは遠すぎる過去の話)


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