行動の理由
「なぜお主らは砂のためにここまでしてくれる」
チヨバアは先に進むサスケとサクラの後ろ姿を見つめてカカシに問う。これまで見たことがない姿に、チヨバアは少なからず戸惑いを感じていたのだ。
カカシは躊躇いながらも口を開いた。
「この班には昔、もう一人班員がいたんです」
「昔?」
「里を抜けちゃったんですよ」
昔。つまり過去のことだ。今はもういない。あの金髪も、青い瞳も今はもう触れることも見ることもできないものだ。
「その子は人柱力なんです。それも九尾を封印された」
チヨバアは目を剥いた。まさかこんな近くに我愛羅と同じような存在をほのめかす人物がいるとは思っていなかったからだ。
「その子はとても優しい子でしてね。我愛羅くんもよく言っていました。『オレ達を一番に救ってくれたのは“その子”だ』と」
我愛羅の痛みを知るその子は誰よりも我愛羅の苦しみを理解していた。それを理解した上で、その子が里を抜ける前に木ノ葉に、砂に与えたものは大きなものであった。
しかし里を抜けた。笑い合えた日々は昔のものだ。
「あの二人にはその子の影を追えるのであれば、理由は何でもいいんです」
だからこそ尽くそうとするのだ。それがチヨバアの質問への答えだった。
「ワシも、長生きした」
数多くの物事を見てきた。世の道理もそれなりに学んできた。そして他国との同盟が形だけのものとわかってしたことが、自分の里を守るための算段をつけることだった。
「我愛羅に術を使って“守鶴”を憑依させたのは、このワシじゃ」
カカシは驚きはせず、ふとチヨバアの横顔を見た。チヨバアもカカシのことを見返す。
「里を守るためにしてきたことが、結果里を苦しめることになり。そして同盟を信じず、避けてきた他の里によって、今助けられようとしておる。ワシのしてきたことは間違いばかりだったのかもしれん。その上老いぼれて諦め癖までついた…」
後悔の思いばかり込みあがってくる。
「カカシよ。若いとはなんという可能性を秘めておるのものか…羨ましいのォ…」
「いえいえ、まだこれからですよ。十分お若いですし」
カカシのお世辞のような言葉にチヨバアはギャハギャハと笑った。
「そうじゃな。老いぼれのワシにもまだできることがあるかもしれんのォ」
まだできることが。自分はまだ生きているのだから。
*****
「遅かったな、カカシ」
「いやいや、途中面倒臭いのに絡まれちゃって」
「サスケくん!サクラさん!」
「カカシよ、面倒臭いのとはワシのことではあるまいな」
サクラがガイ班にチヨバアのことを紹介する。チヨバアはピースをしてよろしくなと挨拶した。
ガイ班と合流したカカシ班は我愛羅がいる洞窟の前で先に進むことを拒む岩に悩まされていた。ネジが白眼で中の様子を調べる。
「(あまりはっきりとは中の様子を見ることはできない…)」
ぼやける視界。中が広い空洞であることはわかるのだが、曖昧な視野は周囲を判断しづらい。とにかく風影の姿を探す。すると風影の顔の横に誰かの膝頭が見えた。
誰かのものが見えたその時、視界が揺れた。
「どうです、ネジ何が見えます?」
はっと視界が元に戻った。リーが体を揺らしたせいだとわかる。いいところであったのに、と心中で舌打ちした。
洞窟の岩肌には「禁」と書かれた札があった。洞窟の入り口の岩をガイが勢いをつけて壁を叩き割ろうとするが、ビクともしない。「結界か…」とガイは呟いた。
カカシとチヨが結界の種類を分析する。これは【五封結界】。
【五封結界】とは札を近辺に五か所貼り付けて作る結界。この結界は五か所の札を同時にはがさなければ解除されることはない。
侵入の前にまずはこの結界を解除することが問題になった。
単純で難しい
(理由はただそれだけで)
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