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 日常になってきた闘技場での戦いを終えて宿屋に戻ると、リンネはこれまでの賞金を数えた。
このメルトキオに来てからというもの毎日闘技場で戦ってきたが、これではまだ足りないだろう。
パーティ戦にも参加出来ればいいのだが、リンネは一人のため個人戦にしか参加できない。
 溜息をついて、リンネはベッドに転がった。
もっと効率よく稼ぐ方法はないだろうかと寝返りをうって、窓から外の景色を眺める。
外から聞こえてくるのは人々の声。
 時刻は夕刻。
 空は茜色に染まり、夜の気配が漂いはじめる時間。
町を行く人々もみな家路についているのだろう。
大切な人がいる大切な場所に帰る為に。
そう思うと少し寂しくなってリンネは溜息をついた。
考えてみればこの世に生を受けてからというもの、傍にはいつも誰かがいてくれた。
家族、友人、仲間。
二、三日くらいは一人で行動することもあったが、こんなにも長い間一人で過ごすなんて初めてだ。

 「会いたいなぁ……」

ぽつりと零れ落ちた言葉に溜息をついて、リンネは膝を抱えてベッドの上で丸くなった。
今、無性に誰かに会いたい。
会って話をしたい。
メルトキオにはゼロスがいるが、寂しいからなんてそんな情けない理由で会いに行けるわけがない。
この町について何度目も思った考えにリンネは大きなため息をついた。
溜息を零しても誰も何も言わない。
当たり前だ。
リンネは今、一人なのだから。
この部屋あるのは父が作った相棒とも言える剣と、必要最低限のアイテムとベッド脇の机にファイトマネーがあるだけ。
もう少しお金がたまったら、使い道についてもう少しきちんと考えなくてはいけないだろう。
何が必要で、何が不必要なのかパルマコスタに戻って検討しなければ。
 そういえば、テセアラの援助の件はどうなったのだろう。
そう考えると最初に浮かんだのはゼロスの明るい笑顔。
この件に関してはゼロスに聞くのが一番手っ取り早いのではないだろうか。
そうすればテセアラ王室の動きも、教会の動きも把握できる。
リンネはベッドから起き上がって手早く身支度を整えた。
何故こんな簡単な事に気付かなかったのだろう。
これでゼロスに会いに行く理由が出来た。
 リンネは部屋のドアノブに手をかけたが、ゆるむ口元に気付いて頬を叩いた。
本来の目的を忘れてはいけない。
まず最初に援助のお礼を言って、それからテセアラ側の動きを教えてもらう。
主な目的はこの二つだ。
 リンネは自分を落ちつかせつつ部屋を出たが、数分後には自然と走り出していた。



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