刹那 | ナノ


「……あなたと同じ刀剣よ」






あれから十日が過ぎた。
歴史修正主義者との戦争は未だに続いており、曉たちの本丸の刀剣たちは全員バラバラになってしまった。もはや、今でも存在しているのかさえわからない。
足元に散らばる金属の破片を踏み潰しながら、重い足を引きずって歩く。
主は無事だろうか。全ての審神者は本部に集められたため命の危険はないだろうが、傷ついた刀剣たちを見て、発狂しているかもしれない。主ならありうる話だ。
すると、すぐ近くの茂みがガサッと音をたてて揺れた。
歴史修正主義者なら、確実に曉はこの場で折れるだろう。どうか、猫や小動物であってくれ。だが、この戦場で猫や小動物が生き残れるはずがない。折れることを覚悟しながら、曉は刀を抜いて立ち上がった。

「…………こいつは驚いた。まさか、俺の他にまだこの辺りにいる奴がいたなんてな」

声の主、鶴丸国永は、曉を見て笑った。
真っ白だった衣装は赤く染められ、白い部分の方が少ないくらいだ。

「女ってことは、一般人か? いや、一般人ならば生きているはずがないな……」
「……あなたと同じ刀剣よ」
「へえ、そいつは驚いた。名前を聞かせてもらってもいいか?」
「曉」
「曉? 俺が知っている曉は、男なんだがな……」

どうやら、この鶴丸は曉の本丸にいた鶴丸とは違うらしい。
それにしても、なぜこの辺りは刀剣が少ないのか。それに、この鶴丸が知っている曉が男だというのも気になる。
しばらく考えていると、いきなり鶴丸が曉の前に立ち、背を向けてしゃがんだ。

「……? 何をしているのかしら?」
「せっかくだからな。一緒に帰城してやろう。君、足を怪我して動けないんだろう?」

その通りだった。意外に、他人のことをよく見ている。きっとこう見えて、練度はかなり高いのだろう。衣装に付着した血の多さに比べて、外傷が少ないのも納得だ。

「別に、歩けるわよ! 歩けるけど! ここで断ったら、あなたが気まずそうだから、仕方なく乗ってあげる。別に、あなたの心配なんてしてないから!」
「ははは。気の強いところは、やっぱり曉だな。ああ、そうだ」

鶴丸は笑うと、懐からあるものを取り出した。

「俺が主からもらったお守りだ。持っているといい」
「でもそれ、あなたの主様が……」
「ああ、いいんだ。俺はもうひとつ持っているからな」

鶴丸からお守りを受け取ると、曉は本当に小さな声で、「ありがとう」と呟いた。
それを聞いて、鶴丸は「気にすることはない」と微笑む。
ここでひとつ、鶴丸は嘘をついていた。
本当は、もうひとつお守りなど持っていない。曉に渡した一つきりだ。
ここで実は持っていないなどと言ったら、きっと彼女は顔を真っ赤にして喚くのだろう。それはそれで可愛らしいが、それで返されてしまっては元も子もない。
背中に伝わる曉の重みをしっかり確認すると、鶴丸は歩き出した。
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