「ミークーリーオー!」

真夜中の2時にミクリオを叩き起こしたのは、同じ旅の同行者でもあるアスティ。
その日は珍しく野宿だったため、今の声で誰かの睡眠妨害をしてしまったのではないかと、アスティではなく、被害を受けた側のミクリオが心配する。幸い、起きたのは誰もいないようだ。見張りをしているデゼルを除いては。
やれやれといった表情で、ミクリオは上体を起こす。こうなってしまった場合、文句を言っても意味のないことは、過去の経験上わかっていることだ。

「……で?今度は何が起きたんだ?」
「ミクリオどうしよう!わたし、さっき戦った憑魔を仕留めきれなくて、ナイフをそのまま刺した状態で逃がしちゃった!」

ーーー何をやっているんだ、この娘は。
ミクリオと、この会話を聞いていたデゼルが同時に思ったことだ。
アスティは基本、数本のナイフを使って戦う。そのため、憑魔に刺さったナイフを回収し忘れることは、別に珍しいことではない。果たしてこの少女は何を焦っているのか。

「でね!その憑魔、ナイフ刺さったままで怒っちゃったのか、急に暴れ始めたんだよね。もう森に被害はいくし、ほんと大変!」

その原因を作ったのは自分だろう、とミクリオは言いたくなったが、寸前のところでその言葉を飲み込む。ここで下手に怒らせては、絶対に一人で討伐にでも行ってしまうだろう。

「だから、手伝ってほしくて。ね?」
「何が"ね?"なのか、僕にはさっぱり理解できないんだが……まあ、憑魔絡みなら仕方ないか」
「ぃよしっ!ミクリオゲット!あ、デゼルも一緒に行くー?」

そう言ってアスティがデゼルの方を見たとき、デゼルは逃げようとどこか人目のつかないところへ移動しようとしていた。この場に居ては、こうなることも予想できたのだろう。…今となっては、全て無駄だったが。
デゼルは一回小さく、でも、アスティには確実に聞こえるように舌打ちをしてから、ミクリオとアスティのいる場所へ戻ってきた。

「やっほい!デゼルゲット!あの憑魔、風属性が弱点だったから助かったよ。じゃ、闇属性の天族のわたしは遠くから見守ってるんで」
「「ちょっと待て」」

逃げ出そうとするアスティの手を、ミクリオとデゼルが同時に掴む。

「だって、わたしの闇属性って、あの憑魔耐性があるんだよね」
「それなら僕の水属性も耐性があったはずだが」
「結局まともに戦えるの俺だけじゃねえか。何一人だけ逃げようとしてんだよ」
「…………ぐっ、言ってはならんことを……っ!じゃ、頑張ってー?」

アスティはそう言うと、二人の手を振り払って走って行く。もちろん二人は追おうとしたが、すぐに足を止めた。
アスティが避難場所として選んだのは、未だにすやすやと寝息を立てている、スレイとロゼの後ろだった。
このままアスティを追うとしたら、確実に言い合い、もしくは騒ぎなど、穏便にはいかないだろう。今この場でアスティを追うということは、寝ているスレイとロゼを起こしてしまうということだ。

「………っ汚ねぇぞ……!」
「へっへーん!このくらいは戦略練らないとねー!じゃ、ばいばーい!」
「待て!」

逃げるアスティを、ミクリオとスレイが追う。
それは、この後3時間ほど続くこととなり、翌日、元気でピンピンしているアスティと疲れきった様子のミクリオとデゼルが目撃されたらしい。

追いかけ、逃げる。




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