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大変なことになったいた。
地下水路の中は街の中よりも相当穢れが酷いらしく、憑魔もあちこちにいた。
そのなかで、緑色でブヨブヨの、ライラいわくスライムという憑魔が、人を食べようとしていたのだ。
「憑魔だ。下がれミクリオ、アリア!」
「何を言う!僕だって……」
「オレとライラで大丈夫。心配するなって!」
スレイはそう言うと、ライラと共にスライムに挑んだ。
ミクリオはそれを悔しそうに見つめ、アリアはただ見ているだけ。何もしない。
〈あーあ、何もわかっちゃいないな、あの導師。今回はもう少しまともかと思ったんだけど。水の天族も可哀想。
アリアだって、憑魔と戦えない訳じゃないのにね〉
影が、アリアの頭のなかに語りかけてくる。
「(………?あたしは、)」
〈うん、浄化はできない。でも、殺すことなら出来る筈だよ。ボクは、そのテストを任されているからね〉
「(誰に?)」
〈教えなーい。それよりもアリア。そろそろ研究所に報告しないと。人間と天族の捕獲についてね〉
影がそこまで言うと、スレイはスライムの浄化に成功したらしく、中に入っていた男性に駆け寄った。
どうやら、怪我はないらしい。
男性に、溺れていたと伝え街へ帰すと、
「よかった。これで心置きなく遺跡探検できるな」
と、スレイが明るい声色で言った。
が、その明るい雰囲気も、「次からは、僕も戦う」というミクリオの言葉で消されてしまった。
「ミクリオじゃ憑魔を浄化できないだろ」
「じゃあこれからずっと君の後ろで指をくわえて見てろっていうのか?僕は足手まといになるためについてきたんじゃない!」
ミクリオはそう言うとライラに、自分も浄化の力を得る方法はないかと訪ねた。
ライラによると、ライラの陪神になることで、浄化の力を得られるらしい。
「じゃあ、それで」
「ダメだ!ミクリオ。そんなこと簡単に決めちゃ!」
ミクリオがライラの手を取るが、スレイがそれを止める。
もう、ライラやアリアの入る隙はない。
「君に言われたくないな。君だって導師になるってあっさり決めたじゃないか」
「それとこれとは別だろ。ミクリオは憑魔を浄化するのが夢なのか?違うだろ」
「僕は天族だぞ。天族の天敵とも言える憑魔を浄化したいって思うのは自然なことだと思うけど?」
「カエルがヘビを退治したいって思わないだろ」
「僕はカエルじゃない」
「何ムキになってんだ!ちゃんと聞いてくれ!ミクリオ!」
スレイがミクリオの肩を掴む。が、
「……ムキになどなっていない」
と、ミクリオは静かな声でそう言い、スレイの手を下ろす。
「足手まといは宿で待ってるよ」
ミクリオは来た道をまっすぐ戻る。
それを見たライラは男の友情だと騒ぎ、
「でしたら慰める役も必要ですわね!アリアさん、行ってきてください!」
と、ライラに無理矢理背中を押され、強制的にミクリオを追うハメになってしまった。
なんとも勝手な人だ。
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