ひとりじゃない(2/2)


「おいおい、またやられに来たのか。お前ドMですか」

竹刀を肩に置いた銀時は面倒臭そうに呟くが、その表情は少しだけ嬉しそうだった。毎日来ては八重にぶっ飛ばされる高杉だったが、数を重ねるにつれ、一瞬で勝負がついていた手合わせも、お互いの息が上がり竹刀を交じ合わせる時間が長くなっていた。八重と高杉の会話も多くなり、少しずつ打ち解け仲良くなってきた頃、その日は来た。

「一本!高杉!」

突きが胴に入り後ろに飛ばされたのは高杉ではなく八重だった。いつもと違う結果に門下生は盛り上がり、銀時は目を見開いて驚きすぐさま八重に駆け寄った。手を引いて立ち上がらせた八重は負けたのにも関わらず楽しそうに笑っていた。

「なに笑ってんだよ。敗けてんだぞてめーは」
「ごめん銀時、セカンドバージン取られちゃった」
「ったくよー、軽いとは言ったけど尻まで軽いとはな」
「アンタこそ、尻のバージンは守んなよ」

塾生たちは笑っていたが下ネタばかりの会話に高杉はドン引きしていた。高杉や塾生が帰ったその日の夜、八重はいつもより遅くまで稽古をし、銀時もまたその稽古に付き合い、その様子を松陽は優しく見守っていた。

「一本!銀時」
「一本!銀時!」
「一本…銀時」

やっと銀時と手合わせ出来るようになったと気合いを入れて毎日来ていた高杉だが、次の相手は八重と違って男。頬を腫らして瞼を切って、身体中に痣が出来ていたがそれでも勝負を挑んできた。

「お前そんなに負けるの楽しい?やっぱドMか?そうなのか?」

どんなに嫌味を言われても銀時の前に立ち続けた高杉には、光が指した。やっと銀時から一本取れたのだ。八重の時同様、突きが胴に入り銀時は後ろに飛ばされた。門下生がすごいすごいと高杉を囲み誉め称え、松陽も笑って道場に入ってきた。そのアットホームな雰囲気に銀時がキレた。

「誰の応援してんだ!そいつ道場破り!!道場破られてんの!!俺の尻のバージンブチ破られてんの!!笑ってる場合かァァ!!」

八重すらも高杉の元にいたため、銀時は怒りを露に声を大きくした。八重は銀時に寄り添うと優しく肩に手を置いた。

「失ったものは戻ってこない。アンタの童貞(初めて)奪ったのは私、ア○ルバージン奪ったのは晋助。それでいいじゃない」
「よくねェェェエエ!」

銀時は八重に言い返そうとしたが、今度は反対側の肩を叩かれた。そちらを向けば、八重と同じように黒い長髪を一つにくくった見知らぬ子が一人、いい笑顔でおにぎりを差し出した。

「もう敵も味方もないさ。みんなでおにぎり握ろう」
「敵味方以前にお前誰よ!なんで得体の知れないやつが握ったおにぎり食わなきゃいけないんだよ!」
「誰が食べるといった。握るだけだ」
「それなんの儀式?!」
「あ、すみませんもう食べちゃいました」
「私も食べちゃいました」
「「はやっ!」」

そこには笑顔が溢れていた。気を張った顔ばかりしていた高杉も、ようやく笑顔を見せた。



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