ひとりじゃない(1/2)


松下村塾に新しい影が一つ増えたのは最近のこと。道場に来ては銀時と手を合わせ敗けて帰っていく少年─高杉晋助─は、松下村塾の門下生とは違い身なりがしっかりしている少しお高くとまっている子供だった。

「先生、今日もあの子きたよ」
「子供は元気でいいですね」
「……いいの?あのままで」
「松下村塾の体験入学者を追い返せと?八重はドSだね」
「先生の教えのおかげです」

松陽と八重は松の木の下で笑い、道場で言い合いをしている銀時と高杉を眺めていた。松陽がそこから離れてもなかなか目が離せずにいた八重だが、春の陽気に誘われあくびをこぼし、木に寄りかかって目を瞑ると銀時が八重に駆け寄ってきた。

「アイツしつけーから八重相手して」
「やだよメンド臭い」
「流石に女に負けたら悔しくて来れなくなんだろ」
「別に毎日来たっていいじゃん。強い子と戦えて嬉しいでしょ」
「アイツ弱ぇもん。八重とやってたほうが楽しいし」

名門私塾・講武館の高杉晋助と言えば腕っぷしの強い悪ガキだと有名だが、銀時から言わせれば弱いやつだった。高杉が来てから銀時と手合わせ出来てない八重は、銀時の言葉が素直に嬉しかった。─しょうがない、と道場へ向った八重は銀時から竹刀を受け取り、高杉の前に立った。高杉は不満げに眉を寄せた。

「おい、どーいうことだよ」
「そいつに勝ったら俺が相手してやるよ」
「…おちょくってんのかテメェ」
「女だからってバカにしてたら、痛い目見んのはオメーだぞ」

八重の実力を認めての言葉だった。銀時と八重の実力は互角で、銀時に勝てない高杉ならば八重でも勝てるだろう─誰もがそう思っていたが、八重は少し不安だった。彼女は銀時の剣の技を知っているからこそ互角にやりあえる。だが高杉は初めて戦う相手、型も技も分からない、最悪負けるかもしれないという不安だ。けれどここは勝たなければならない。ならば、やられる前にやるしかない。八重は竹刀を構え深く息を吸った。

「油断すんなよ」

銀時が高杉に呟いた。「始め!」と声が響き二人の勝負が始まった。高杉の目から八重が消え、銀時は薄く笑いを浮かべていた。

「八重は松下村塾で一番軽い」

銀時の言葉が言い終わる時には、高杉の横っ腹に竹刀が入り、壁に激突していた。痛みにうずくまる高杉は、聞こえた声に意識を戻した。

「一本!」

八重の勝ちだ。一瞬で終わった勝負に高杉が怒りを露にし、銀時に詰め寄り胸ぐらを掴むもすぐに離されてしまった。逆にキレることもせず、ただ鼻をほじる銀時に余計に怒りが湧く高杉。

「テメーが話し掛けるから!」
「人のせいにしてんじゃねぇ。俺が話し掛けてなくてもお前は負けてたよ。八重の動きは軽いんだ。烏の羽みてーにどこに動くか分からねぇ。今回負けたのは俺でも八重のせいでもない、テメーが弱かった、それだけだろ」

外に落ちていた黒い羽を拾い宙に投げた銀時。その羽はゆらゆらと不規則に動き、風にのって高杉の前に落ちた。高杉は拳を握りしめ無言で松下村塾を出ていった。

「これでもう来ないな」

銀時は鼻をほじりながら高杉の出ていった方向を見つめた。しかし高杉が見えなくなってもそちらを見続ける銀時を八重がニヤニヤしながら肩でつついた。

「さみしい?」
「は?」
「私以外で毎日勝負してたのあの子くらいじゃん。来なくなったら寂しいでしょ」
「清々する」
「素直じゃなーい」
「うるせーペチャパイ」
「ぶっとばすぞ粗チン」
「俺はこれから大きくなるんだよ」
「私だって大きくなるっつーの!」
「俺は大きくなった後もいざと言うときもっと大きくなるんですぅ!」

二人の言い合いは松陽のゲンコツが降ってくるまで続いた。



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