「誰をかも 知る人にせむ 高砂の 松も昔の 友ならなくに」 松下村塾。立派とは言えない寺子屋で、松陽が本を片手に和歌を読む。初めは銀時と八重だけだったここ松下村塾も、無償で手習いを教えているいうこともあり人が増えてきた。年齢や性別は違えども、その仲はとても良くいつも笑顔が溢れていた。 「じゃあこの和歌を現代語訳してもらいましょう」 松陽が言うと、何人かの子供が手を挙げた。松陽が名前を言う前に発言をする子供たち。 「はい先生!銀時と八重がまた寝てます!」 「いびきがうるさいです!」 「うーん、これはいけませんね」 長机が幾つか並んだ部屋の後ろの隅で、頭を寄せて仲良く眠るのは刀を抱き締めた銀時と八重。八重の頭には銀時のヨダレがついていた。松陽は二人に近寄ると拳を脳天に打ち込み、二人の頭には大きなコブが出来た。痛みで目を覚ました二人は頭を押さえ足をばたつかせた。 「八重、さっきの和歌を現代語訳してくれますか?」 「うー、先生ぇ、寝てたのでどの和歌か分かりません」 「そうですか、なら減点500点」 「何点からの出発ですか」 「0です」 「やっべマイナス500点だ私」 「違いますよ。今までのも含めるとマイナス50,000点です」 「まじでか。ある意味すごくね?これむしろ表彰されるべきじゃね?」 松陽と八重のやり取りで生徒が笑うのはよくある光景だった。八重の隣でバカだな─と笑っていた銀時は笑顔の松陽と目があった。 「笑っている場合じゃないですよ?」 「え?」 「銀時お前はマイナス100,000点ですから」 「まじでか。もしかしてトップ?わりーな八重表彰されんの俺だわ」 「そんな不名誉な表彰いくらでも譲るっつーの」 読み書き、計算、史上、学ぶことはたくさんあった。その中でも銀時と八重が得意としていたのは保健体育。胴着に着替えて竹刀を持つと、二人は止められる者はいなかった。 「どっちが勝つと思う?」 「銀時!」 「俺も銀時」 「今日は八重が勝つもん!」 「八重ちゃん頑張れ!」 松陽に拾われるまで、戦場で刀ひとつ一人で生きながらえた二人は、この寺子屋で剣の腕で右に出るものがいなかった。毎日松陽に教わり竹刀を振り、型を学ぶも身に付いた戦い方は体から離れずどちらも我流のめちゃくちゃな型で竹刀を振る。今日は八重が勝ったようだ。 「やった!来週のジャンプは私が先ね」 「へっ。女だから手加減してやっただけだっつーの」 「アンタ負けるとそればっか。女々しい男はモテないぞ」 「女々しくなんかねー!」 「ま、どっちにしても天パはモテないよ」 「だから天パバカにすんなっつーの!これは大人になったら直るの!サラッサラのストレートになるの!」 ふわふわと銀時の頭を触る八重は自身の長い髪の毛をサラリと流した。濡烏のそれは目を引く美しさで、整った顔立ちも相まって八重に好意を抱いている塾生も少なくない。 「ふぅん。将来の楽しみが増えたよ」 「お前調子乗ってっと痛い目みるからな。ストレートだからいいけど、傷んでチリチリになったら頭に陰毛ついてるようなもんだから」 「最初から白い陰毛が生えてるやつよりはマシ」 「……死ね八重」 「お前が死ね銀時」 口喧嘩では八重に勝てない銀時。他の生徒は「また始まった」と呆れたように稽古を始めたが、やはり道場には笑い声が響いていた。 ≪ | ≫ Top |