夏が運ぶ風(2/5)



夏になると幾つか開催される祭りの中で、今日は一番大きな祭りだ。つまり人出も一番多くなる。お母さんと叫びながら迷子になって泣いてる子供も毎年のこと。だからと言って話しかけたり親を一緒に探そうとは思わない、面倒くさいから。何が悲しくて泣いてる見知らぬ子供の世話をしなくちゃならないのか。と泣いてる子供を見ながら冷めた考えをしていると八重が隣から消えていた。面倒くさい、とため息が漏れる。流石にはぐれた彼女を放置するほど冷めてはなかった俺は八重を探す。案外すぐに見つかった八重は人に流されたんだと恥ずかしそうに笑っていた。


*


インドア派、人混み嫌いなレギュラスがお祭りデートをオッケーしてくれたのには驚いた。しかもここらで一番大きなお祭りに。来てみたら案の定渋い顔をしてはいるけど、文句は一言も言わない当たり人間として出来ていると思う。沿道で泣いている子供をレギュラスは面倒くさいとか思っているんだろうな、と考えていれば人の波に流されていた。離れてしまうレギュラスの名前を呼んでも周りの音にかき消されてしまう。だけど、レギュラスはちゃんと私を見付けてくれた。少し焦ったような顔が嬉しくて、人の波に流されて良かったと思った。





はぐれない方法





「本当にどんくさい。あそこで泣いてる子供と同じだ」
「ごめんって〜。どんどん押されて立ち止まれる力なかったの」
「名前呼ぶなりなんなりすればよかったんだ。何のための口だよ」
「呼びましたー。それは何度も呼びました!でも周りが煩すぎて聞こえなかったんだね」
「じゃあ離れないように努力するんだな」
「よし、手を繋ぎましょう」
「暑い。ムリ」
「この手の行き場をどうしてくれる」
「……ここ」
「ここ?」
「掴んでいればいいんじゃない。そうしたら離れないだろ」
「えっいいの!」
「伸びる生地じゃないし」
「わーい!これも女子の憧れのシチュエーションなんだよ!」
「シワつけたら怒るから」
「えっ」
「これ兄さんのだから丁寧に扱えよ」
「あっ、気を付けまーす…」


裾から伝わる愛情に歩幅も自然と揃っていく。シワのない夏の記憶。









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