夏が運ぶ風(1/5)



じんわりと汗ばむ首筋。陽はもうとっくに沈み星が輝く時間だと言うのに、今日と言う日は大勢の人が遅くまで羽目を外す。宙に飾られた赤提灯の下、絶え間なく笑顔で溢れる老若男女は一枚の布を同じように着こなしていた。かく言う俺も同じで、慣れない服の感覚と足元に眉根にシワが寄る。遅い、早く来いと携帯を光らせるがメッセージは0。思わず出た舌打ちが騒がしい空間に消え去ったのと同時に、軽い下駄の音と荒い息遣いが隣から聞こえた。申し訳なさそうに名前を呼んできた八重に思わず目を奪われた。


*


浴衣を着るのに時間がかかってしまった。髪型も悩んで悩んで決まったものだ。可愛いって言ってくれるかな、なんてレギュラスはそう言うことを口にするような人じゃないなと思い走ることに専念する。履き慣れない下駄は走りづらく、せっかく上手く出来た髪も崩れてしまいそう。何よりいつもより丁寧に施した化粧も汗で流れてしまう。もう、最悪だ、遅刻もしてるし先が思いやられる。人を掻き分けてやっと着いた待ち合わせ場所にいたレギュラスはやはりかっこよくて、赤提灯の灯りと屋台の光全てがレギュラスを照らしているんじゃないかと思うくらいにキラキラしていて、すこし話し掛けるのに戸惑ってしまった。





煌めく世界ときみ





「遅い」
「ご、ごめん!思ったより浴衣着るのに時間かかっちゃって」
「ったく、着なれないもの着ようとするからだ」
「夏祭りに浴衣着ないでいつ着るのよ!」
「別に着なくていい」
「男はロマンってものが分かってないよね」
「はぁ…」
「彼氏と浴衣を着てお祭りに行くって言うのは女の子の夢なの!」
「へぇ。じゃあ八重の夢は叶ったんだ。俺のおかげで」
「あ、感じ悪い。確かにレギュラスのおかげですけど、その態度はいただけないなぁ」
「遅刻しないでねって念を押してたやつに遅刻されても怒らずにいる俺の態度がなんだって?」
「レギュラス様、お飲み物はいかがでしょうか?」



二つの笑い声は多くの笑い声に紛れ一つとなる。短い夏の夜。



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