忘れないでほしい(1/2)


浮気調査のため依頼人の旦那の尾行をする万屋事一行は、ターゲットがラブホ街に入った瞬間を写真に収め無事に仕事を終えた。帰り道、団子屋を指差しお腹が空いたと駄々をこねる神楽をいい加減な理屈で諭した銀時。仕方なく酢こんぶをしゃぶる神楽に新八が同情していると、目の前でバイクに乗った男が歩いていた女のバッグを引ったくった。男は逃走を図ったが、銀時が木刀でバイクをぶっ飛ばし神楽が男を殴り新八が女に安否を確認するという連係プレーを見せ犯行は未遂に終わった。野次馬が増える中、銀時が縄で男を拘束しているとその背中に猿飛あやめが抱きつき、銀時に愛を叫んだ。新八と神楽がジト目で見やり、うるせェと猿飛の脳天に手刀を落とした銀時はその際に懐から落ちた簪を拾い上げた。それを見つめため息を吐いた銀時に猿飛が飛び付いた。

「嘘でしょ……銀さんが私にプレゼントだなんて」
「嘘も本当もねーよ。お前にプレゼントなんかねーよ」
「じゃあこの簪はなに!?他の女のものだって言うの!?」
「だー!もううるせぇ黙ってろ!」
「っ!この簪の似合う淑やかな女になれってことね。そう言うことなら早く言ってよもう……どう?」
「どう?じゃねェェ!なに髪に挿してんだよお前んじゃねぇんだ返せ!」
「いやよ!銀さんがくれたものなの!誰にも渡さない!」
「ふざけんな!」
「あの、さっちゃんさん……それ銀さんの大切なものなんだと思うんで、返してあげて下さい。お願いします」
「新八……」

忍者の猿飛のスピードに着いていけず簪を取り返せない銀時だったが、新八の言葉で猿飛は大人しくなった。祭りが終わってから暇さえあれば簪を眺めている銀時を見ていた新八は、それが銀時にとってなにか大切なものかと疑問に思っていた。それが今回必死に取り返そうとする銀時を見て確信に変わり言葉をかけた次第。明らかに落ち込んだ様子の猿飛だが、ホッとした銀時がその髪に挿さる簪に手を伸ばそうとした。その時、背後から視線を感じ振り向いた銀時は野次馬の向こうに懐かしい影を見つけた。太陽に照らされ光る濡烏の髪にしゃんとした立ち姿は見間違えるわけがない、忘れるはずがない銀時の愛しい人。

「待てっ八重!」

八重は銀時に背を向け後ろ髪を風に靡かせながらそこを去った。後を追いかけようとした銀時はサイレンを響かせたパトカーによって道を塞がれてしまい青筋を立てた。パトカーから降りてきた土方と沖田とその他もろもろの真選組に引ったくり犯を渡し、被害者の女と共に真選組の屯所で事情聴取をされた万屋事は聴取が終わってもそこを動かなかった。

「あーあ、これだから役に立たねぇお巡りさんはよぉ。なーにが見廻りだよ、俺らがいなきゃ逃げられてたぜ?」
「全くその通りネ銀ちゃん、私がいなきゃ犯人取り逃がしてたアル」
「………何が言いてェんだてめーら」
「難しい話じゃねぇ。誠意を見せろってこった。謝礼金とかいろいろあんだろー」
「旦那がぶっ飛ばしたバイクで店が一件潰れてんだ。逆に請求したいくらいでさァ」
「いや日頃からバズーカぶっ放して店壊してる人に言われたくないんですけど」
「請求されたくなきゃバカなこと言ってねーでさっさと帰るんだな」
「ケッ。これだからポリ公は嫌いなんだよ」

屯所から出てきた銀時の機嫌の悪さは神楽にも伝染し、神楽は屯所の前にゲロを吐き出した。臭い、臭くないと言い合いをする銀時と神楽に呆れる新八は思い出したようにポケットから簪を取り出し銀時に渡した。言い合いと足を止めた銀時は受け取った簪を数秒見つめると懐にしまい止めた足を動かした。今のは何かと聞く神楽の頭にほじりたての鼻くそをつけ適当にはぐらかす銀時に代わり、新八が微笑みながら神楽に説明した。

「銀さんの好い人のものだよきっと」
「いいひとって何アルか?」
「好きな人、恋人ってこと」
「おいおいぱっつぁん出鱈目言ってんじゃねーよ」
「え?違うんですか?毎日光に照らしてみたり眺めたり大事そうにしてたんでてっきりそうなのかと」
「いや違うっつーか……」
「誰のでもないなら私にちょーだいヨ。絶対似合うアルヨ」
「誰がオメーになんかやるか!安くねーんだぞこれ!」
「銀さんが安くないものをプレゼントするくらいなんだから、よっぽど好きだったんですね」
「……なに?なんなのお前、俺の弱味でも握ろうとしてる?」
「違いますよ!どんな人なのかなって思っただけです」
「銀ちゃんのことが好きな女なんて、さっちゃんみたいな変態かブスでデブな年増の女しかいないアル」
「俺のことなんだと思ってんだてめーは!」
「じゃあどんなやつアルか?いい女だったの?」
「………いなせな女だよ」

返答によってはからかおうと思っていた神楽だったが、銀時の簪に向けた見たことのない優しい表情を見てそれは出来ず、新八も銀時が思っていた以上に想い人に対する愛情を見せたので思わず赤面した。万屋事に着くと銀時は写真を現像しにバイクに乗って行き、神楽と新八は銀時の好い人について三分語り合った。



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