小説 | ナノ




28




ピリピリと空気が震える気がする。ザンザスと二人切りのエレベーター内は耳が痛いほどの沈黙が支配していた。


(顔が見られない…)



スクアーロは俯いて、エレベーターが早く目的の階に停まるのを祈っていた。



キラキラと乱反射する華奢なハイヒールのビジューを見つめて、少し虚しくなる。



(どんなに着飾ったところで俺は所詮俺だし、…ザンザスはなんだか怒ってるし……何やってんだか。)



じんわりと光が滲んだ。



(セコンドさんに色々良くしてもらって、浮かれてたのかなぁ。俺…)



スクアーロはグッと下唇を噛んだ。堪えていないと、また色々な感情が溢れてしまいそうになる。


騒がしく煌びやかなパーティー会場とは打って変わってエレベーターの静かな箱内は、急に現実に引き戻された気分だった。


(そう、全て夢………っ!)



ふっと自身の足元に大きな影が重なった。ハッとして顔を上げると、ザンザスが黙ってスクアーロを見下ろしていた。



「う゛…ぉぉ…、なんだぁ?」


「……」



「う゛…」


ジリジリと無言で近寄るザンザスから、後退りで逃げようとするが、狭いエレベーターボックス内には逃げ場はなく直ぐに壁際に追い詰められた。


ダンッ


ボックスが揺れる程の勢いで、ザンザスの筋張った手がスクアーロの顔の真横につかれる。


「…っ」



スクアーロは驚いて思わず目を瞑ってしまい、恐る恐る目を開けた。



「な……に…?」



絞り出した声が震える。


真っ直ぐに睨むザンザスの目が、恐い。



「っ!」



目をそらそうとした瞬間、スクアーロを影が覆った。慌てて見上げると、ザンザスの顔が至近距離に迫っており、そのまま柔らかい感触と共に2人の唇が触れた。





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