15 全く、不覚だった ザンザスは平静を装いながらも平時よりも早足でスクアーロのアパートから離れると待たせていた車に乗り込みドアををしめた。 ふぅっと息を吐く。ここまでまるで息を止めていたのではないかと思うくらいに、次に吸った息に対して鼓動が早まる。 「会社へ向かいますか?」 バックミラー越しに後部座席を確認し、行き先を告げない主に恐る恐る老齢の運転手が尋ねた。 「いや、自宅へ」 短く返事をすると車が静かに走り出した。 ◆◆◆◆ スクアーロの顔は真っ青で、全身が氷のように冷たかった。しかし、スクアーロの部屋には体を温めるものがない。 部屋にあった布団はズッシリと重たく冷たい綿布団で、ザンザスはその布団をスクアーロ被せることに躊躇した。冷えて死にそうになっている人間に冷たい布団を被せてかまわないのか、検討がつかない。なにせ綿布団なんてザンザスは使ったことがないのだ。 そこで、電話で高級ベッド寝具付きを急遽用意させたのだった。 ものの30分程で届いたベッドは小さなアパートの玄関からは入らないサイズで、もちろん窓から入れることになったが自分で運び込む訳ではないし問題はない。 「う゛…ん……、寒い…」 スクアーロをベッドに降ろしたが、彼女の体温はなかなか上がらずひんやりとして時折うわ言のようなものを呟いた。 しかしザンザスが額に手を乗せると、暖かさに安心したように寝息を立てた。 「…世話を焼かすやつだ」 そうだ、この後がおかしかったのだ。この時なぜ自分はベッドに入り一緒に寝てしまったのか。 湯たんぽでも用意すればよかったのだ。 しかし… 『ザンザス…ごめんなさい…』 か細く呟いたスクアーロの唇がはっきりと蘇る。薄く、ひび割れしているような、まるで魅力のない唇が脳裏に焼き付いて離れない。 どうもスクアーロにはペースを乱されてばかりだ。 (なんだ、もやもやとしたこの感じは。) 好みのタイプでもなんでもない、ガサツで喧しい女がなぜこんなにも気にかかるのか。 (黙っていれば外見だけは綺麗なのにな) 運転手は後部座席からゴンッという窓ガラスに何かがぶつかったような音を聞き、ミラーで確認するとザンザスが額を抑えていたため、自分の運転のせいだろうかと青ざめたが、その後なんのお咎めもなかったので不思議に思いながらも安堵した。 [mokuji] [しおりを挟む] TOP |