小説 | ナノ




13



スクアーロは真っ暗なアパートの玄関に座り込んだ。どうにも立ち上がる気力がわかない。


(もうやだ、なにもかもうまくいかない)


山本には夜の仕事がバレるし、せっかく会えたザンザスは怒っていたしで散々だ。


ぼんやりと部屋の奥のテーブルを見つめた。そこには、数ヶ月前に母親が書き置きしていった「さよなら」と書かれたメモがそのまま残っている。


(全部、アンタのせいだ)



膝を抱えて身体を丸めたスクアーロの肩が震えた。





◆◆◆◆◆


ドンドンっと背中に衝撃を感じてうっすらと目を開けた。
―寒いし、なんだか人形のように手足が固まって動けない。


ドンドン


(ナ、ニ…?)
自分が座って居る場所はどうやら玄関で、帰って来て座りこんだまま意識を失っていたようだ。コンクリートの玄関床もさほど冷たいと思わないくらいに体が冷えているらしい。
電池が切れてそのまま鳴らなくなったインターホンのかわりに玄関の扉を誰かが叩いている。


「居るんだろう、スクアーロ!出てこいテメェ!!」


聞き覚えのある怒声が背中側からした。
ハッとまた沈みかけていた意識を戻す。


「ザン…ザス…?」


スクアーロは何とか首の向きを動かして少し上を向くと、酷く掠れて音が切れ切れになった声で呟いた。


「…!?おい、どうした?」


「…わかんね……ごめん、助けて」



ああ、また迷惑かけた。と思いながらも目の前が真っ白になり遠くでザンザスが何か言っているが、それも聞こえなくなった。




◆◆◆◆◆


スクアーロの家の中には、物を溜め込まないザンザスでもびっくりするほど何もなかった。
冷蔵庫はプラグがコンセントから抜けているし、ベッドがなくソファに布団と枕が置かれている。

大家を呼んで玄関を開けさせると扉にもたれていたらしいスクアーロが倒れてきた。一応生きてはいるし、後は面倒みると言って大家を帰すとスクアーロを抱えて部屋に上がり込んだ。

とにかく冷え切った体はまずいので温めようと思ったが暖房器具は無さそうだし、風呂の湯を張るのを待つのも時間がかかる。
ソファに降ろしたスクアーロは土気色の顔のままピクリとも動かない。


(なんで俺がこんなこと…)


ザンザスは現状に呆れ半分に溜め息を吐くと、携帯を取り出して電話をかけた。





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