小説 | ナノ









「う゛ぉ?ザンザ…、オーナー来てないのかぁ?」


「あら、今日は元々お休みよっ。あの方ここ以外でもお仕事あるから忙しいのよ。」




風でボサボサになった頭をポリポリとかきながらスクアーロは気が抜けたように戸口にもたれ掛かった。
いつも誰よりも早く来ているレヴィは仕度部屋にはおらず、ルッスーリアが一人お湯を沸かしていた。



「なぁに、何かあったの?」



ゆったりとしたアイボリーのニットワンピースを着たルッスが袖余りになった手でコーヒーの入ったカップを差し出す。
受け取ると、ふわりと湯気が揺れた。


「…う゛…ん……あったといえばあったんだけど」


「なになに、気になるじゃないっ!?早くお姉さんに言ってみなさいな!もしかして、昨日?」


興味津々のルッスーリアが身を乗り出して聞いてくる。


「あー……。うん…昨日面倒見て貰った礼してねぇし」


「あら、なんだそんなことなの?」


一気にテンションが下がったようにソファの背もたれに沈む。



「いや、それがよぉ…膝枕させちまったんだぁ。ザンザスに」


「きゃああっ!んまぁ、ヤだ、ズルイッ!!オーナー甘〜い!素敵!ご馳走さまっ」



再び沸騰したテンションでルッスーリアがソファの上で跳ねた。
オンナってなんでこんなすぐピコピコ跳ねるんだ、ってくらいに。




「それで!?キスとかしちゃったり?それ以上もしちゃったり?」


ルッスーリアが満面の笑みでにじり寄ってくる。


「わっ…ばか!んなことしてねぇ!!膝枕だけでもういっぱいいっぱいだぁ!」


「あら、そんなのその場の空気に流されちゃえばいいのよ。きっとオーナーうまいわよ」


くるくると行き場を求めて空中に丸を描いていたルッスの人差し指がスクアーロの鼻の頭にチョンッと触れる。


「…?何が?」


キョトンとした表情で、言葉の意味をはかれないでいるスクアーロの蒼銀の瞳が中心に寄った。


「まっ!あんた大丈夫!?あんなイイ男なのよ、それにこの仕事…女なんて抱き放題!あんたどうせ男経験なんてほとんどないんでしょ?サクッと抱かれてくれば?」


「はぁっ!?だ、誰がんなことするか」


鼻先をくすぐるルッスの指をひっ掴むと、真っ赤になったスクアーロがわあっと吠える。

「え、まさか処女?それともオーナーとそういうのはないってこと?」



「両方!」






それからしばらくの間、仕度部屋からはルッスの悲鳴のような甲高い笑い声が聞こえていた。



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