小説 | ナノ








鼻をくすぐる甘い匂い。

さらりと流れる細い銀糸はキラキラと光りながら手の中から逃げた。








誰もいない部屋の中、ザンザスは一人手のひらを見つめる。


「…ふんっ…馬鹿馬鹿しいな」

アイツの何かが気になる。スクアーロに初めて会った日、その真っ白い姿に目を奪われた。
着飾ってもいないのに目を惹く容姿、裏腹に口が悪く更に喧しい特徴的な、とても美しいとは言えない声。
それに、中身はとてもじゃないが水商売には向いていない。
商品価値などない。そんなことはとっくに分かっている。


(何故、手放さない?)



ふうっと息を吐くと、険しい目元に赤が深まった。








(まさか、膝枕させるなんて!あり得ねぇよ!!?次どんな顔して会えばいいんだぁ)



スクアーロは持っていたフロアクロスホルダーの柄を折りそうな勢いでぎゅうっと握り、身悶えていた。
時計を見るともうすぐ17時、コンビニのバイトが終わる時間だ。


「スクアーロ?それボロいからあんまし雑に扱うとすぐ折れるのな。」


「えっ…ああ、すまねぇ」


先程から床掃除が一向に前に進まないスクアーロに見かねて山本が声をかける。
今日のスクアーロはいつもより元気そうだが、朝からずっと赤くなったり青くなったり忙しそうだ。


「なんか良いことあった?」


「う゛ぉ?何もないぞぉ?」


何もないわけがない。目に見えて生き生きとしている。
しかし挙動不審だ。先日までの死にそうになっているスクアーロに比べたら、まだいいか。とそれ以上は聞かないようにした。


「なぁなぁスクアーロ、今度遊びに行かねぇ?あ、ホラ他の子とかも誘って!ビアンキさんとか?」


「いや、俺忙しいんだぁ。掛け持ちしてるし…」


「掛け持ち?そうなんだ、どこで……」


お喋りに花が咲いていたが流石に夕方、急に来客が増えた為結局山本はそれ以上は聞いて来ず、スクアーロは色々余計な事を聞かれる前に店を出た。



(流石にガキの前で水商売してるとか言いたくねぇしなぁ…)



いつもは一度家に帰ってからclubヴァリアーに向かうのだが、今日はそのまま行くことにした。


(あの後テンパっててちゃんと詫びてねぇしなぁ。…来てるかな)





しかし後日、スクアーロは直行したのは間違いだったと後悔するのだった。



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