3 コンコン 「失礼しまぁ゛ーす」 事務所、と言っても店の入っているビルの5階を丸々1フロア利用したそこは、薄暗いくせに広々としていて事務所らしくはない。 (“イイ雰囲気の部屋”ってヤツかぁ?) 壁をぶち抜いた造りの大きな水槽には鑑賞魚が悠然と泳ぎ、ライトに照らされたカラフルな海月が漂う。 「座れ」 ソファにどっかりとくつろぎ書類を捲っていたザンザスがスクアーロには視線もくれずに向かいのソファを顎で示した。 「…なんの用だぁ…?」 「…テメェ何ヶ月最下位をキープする気だ。外見が良いってだけではやってはいけねえぞ?」 静かに灰皿を引き寄せ、タバコをくわえたザンザスにスクアーロがサッと火を寄せた。ふぅっと紫煙が吐き出され、苦味のあるにおいを残して消えた。 「…分かってる」 「いや、分かってねえ。テメェいくら借金あると思ってんだ?次最下位なら利息上げるぞ」 「ぐっ……」 ニヤリと笑うザンザス、あぁ。そんな顔も格好良いんだとか脳天気な事を言ってられたのも今は昔。 この男はやるといったら本当にやると、この数ヶ月間で思い知った。 丁度4ヶ月前、バイトを終えて家に帰ると母が“さよなら”とだけ書き置きをのこして消えていた。 そしてすぐ訪ねてきたザンザスの部下によって攫われて来たのがこの場所だ。 ザンザスの話では、スクアーロの母親には多額の借金があり彼女はスクアーロを捨てて愛人と逃げたらしい。 そして今、スクアーロは母親の代わりにザンザスの店で働いて借金を返済している最中だ。 オーナーはイケメンだし、水商売くらい楽勝とかほざいた過去の自分をはたいてやりたい。いくらオーナーがイケメンだろうと客は大半が中〜壮年の酒癖の悪いジジィ共。あちこち触られ回って2日でニコニコなんてしていられなくなった。 「…金はちゃんと稼いで返す。じゃあなぁ」 ふらりと立ち上がり、スクアーロは部屋から出て行った。 「チッ……カスめ」 ザンザスはそう呟くと煙を吐き出した。 [mokuji] [しおりを挟む] TOP |