30 世界が、まるで2人だけになったように呼吸を止めた。 (夢で見た人に似てる…) 初めて見る自分以外の紅い両目。自分とは違う黒髪に浅黒い肌。顔、頬、そして首から体へも続く傷跡。 全てが初めて見るはずだが覚えのあるような目の前のこの人物は、ただ静かに自分を見下ろしている。 「……」 (きっと、この人が私の…) 何だか心がざわざわとして落ち着かない。なんて言えばいいのだろう。最初の言葉は、何を言えば。 「…こ…こんばんわ……?」 (あぁっ…!そうじゃない!…挨拶も大事だけど、違うよ、もっと何か……) 思わず出てしまった言葉にシルヴィアは混乱して、泣きそうな笑顔を貼り付けて彼を必死に見上げる。 彼は何の反応も見せずに未だこちらを見下ろしているだけだった。 「あ…の……私っ…」 「…」 必死に話をしようとするシルヴィアの頭を一瞬大きな手が撫でて、彼はそのままスッとシルヴィアの横を通り過ぎて屋敷の奥へと歩いて行ってしまった。 嬉しいような恥ずかしいような、とにかく緊張していたシルヴィアはヘナヘナと力が抜けてその場に座り込んでしまった。 (うわぁっ……、頬が熱い…!) カッカと火照る頬に小さな両手が触れた。 (すごい…今日は夢みたいな日ね…。) 「悪ぃ!待たせたなぁ。……シルヴィア?どうしたぁ?もしかして熱が上がったかぁ!?」 「大丈夫…」 「大丈夫って…顔真っ赤だぞぉ?」 座り込んでいるシルヴィアを見て、スクアーロが驚いて大声を出していたが、シルヴィアの世界はグルグルと回りうまく聞き取れない。 そのまま小さな体が傾いたのをスクアーロが受け止めた途端シルヴィアは意識を手放した。 [mokuji] [しおりを挟む] TOP |