29 昔々に見た覚えのある、威圧感のある重厚な扉を前に立った。バッグを握った手の平がうっすらと汗ばんでいるのを感じる。 (こんなに重たそうな扉だったっけ…) 派手ではないものの高級そうな細工が施された扉にはそれに見合った獅子の形をしたノッカーがついており、シルヴィアはその輪をくわえた獅子を睨む。 すでに陽が落ちて僅かな外灯に照らされた獅子は彫りを深め険しい顔で、まるでシルヴィアを見つめているようだった。 「どうしたぁ?」 ガチャッ キィッ… スクアーロはあっさりと扉をひらいた。 門番のような真鍮の輪をくわえたあの獅子は何も拒まず2人を迎え入れる。館内へと一歩踏み出し思わずホッとして足がもつれそうになった。 「な…なんでもないっ」 (大丈夫…) 「う゛ぉーい!ルッスー?」 仄暗い館内の廊下は間接照明が点々と置かれているだけで、少し背中がゾッとするような冷たい雰囲気を醸し出していて思わずシルヴィアはスクアーロの右手をギュッと握った。 少し歩くと、螺旋を描く階段のある広間に出た。シャンデリアがキラキラと光を放ち、さっきまでに比べると明るい。 「ちょっとここで待ってろなぁ。」 「ぁっ……うん…」 スクアーロはそれまで繋いでいた手を離し、屋敷のさらに奥へと行ってしまいシルヴィアは一人残されて不安になり、さっきまで繋いでいた左手の感覚が名残惜しくてその手の平をじっと見つめていた。 「…!」 俯いているシルヴィアに不意に大きな影が覆い被さったので、はっと振り返るといつの間にか背後に長身の男性が立っており… (…紅い…) 顔を上げると丁度、深いルビーの色をした瞳同士が合わさった。 [mokuji] [しおりを挟む] TOP |