双葉を摘むにはまだ早い
1
お婆ちゃんがくれたお饅頭をもって、家路を急いだ。
だってだって、ほっぺたが落ちるくらいに美味しいし、早くみんなで食べたいんだもん。
しかし、自分の足は大人より短く、走るのも遅い。果てしなく続く田んぼ道を走る度、待ちきれない思いが、刻々と膨れ上がる。
あれ…?
ふと先のほうに視線をやると、見覚えのある袴姿があった。
もしかして…そーくん?
確信はなかった。だって今日はお友達とかけっこするって近くの森に行ってたから。
森とは反対側のこんなところで蹲ってるはずはないのだ。
「そーくん?」
そっと近づき声をかけた。
だが反応がない。ただの屍のようだ。
そーくんじゃないのか、やっぱり。
回り込んで、同じようにしゃがみ、隣にお饅頭の入った風呂敷を置いた。
「なにしてるの?」
好奇心から、声をかけた。もし最近この村に来た子なら、仲良くなりたいから。
顔を覗き込むと、まん丸おめめがこちらを向いた。
「あ、やっぱりそーくんだ。」
はじめましての人ではなく、自分の予想が当たっていたのが嬉しく、つい口元が緩んだ。
「どうしたの?まーくんと遊んでたんじゃないの?」
「…」
無視だ。そーくんは機嫌が悪くなると、すぐ無視をしたり、こちらが嫌だと思う態度をとるのだ。まぁ慣れてるけど。
この様子だと、きっと皆と喧嘩したのかな…。
全てそーくんが悪いわけではないけど、負けず嫌いで意地っ張りで、そういうとこで関係が悪くなってるのを何度か見てきた。だからなんとなくそうなんじゃないかなって、今回も思った。
「これからお家でお饅頭食べるけど、一緒に食べよ?お婆ちゃんのだからおいしいよ。」
木の枝を使ってぐりぐりと書いているそーくんの気をひこうと、食べ物でつる。
「いらない」
そう言って、手を動かすのをそーくんは止めなかった。
「えー!?食べないの?!そーくん前食べた時美味しい〜って喜んでたのに…!え〜?なんでなんで?」
不思議でしょうがなかった。お饅頭より木枝の方がいいのか。そーくんがそんな子だなんて。そんなわけないのに。
「うるさい」
ぴしゃりと言い放ち、私はうっとなった。
「じゃあここで一緒に食べよう。本当はみんなで食べてねって言われたけど、内緒ね。」
私は待ちきれなかったこともあり、そそくさとお饅頭を取り出した。
「うぜえんだよ。いらねぇからあっちいけって。」
ぽいっと木の枝を投げ捨てたそーくん。やっぱり、木の枝の価値はそんなもんなんだ。
まぁきっとお腹が空いてるからこんなに怒ってるんだろうし、食べさせてあげれば、また笑顔になるはずだ。
私は聞こえてないふりをして、お饅頭をとりだした。
うん、おいしそう〜。
「そーくんから食べていいよ。」
はいっと差し出すが、そーくんはそっぽを向いている。
仕方ないので、私から食べた。
「美味しい〜〜」
ほっぺた落ちたわ。ほくほくとして、次々と頬張った。
半分食べたところで、もう一度そーくんに声をかけた。
渋々といった感じで、こちらを向いてくれたそーくん。それだけでも嬉しくて、ニコニコになる。
そーくんが手を差し出す前に、そーくんの口の中にお饅頭を突っ込んだ。
ぱんぱんになったそーくんの顔が面白くて、けらけらと笑った。
ムッとしてるが、もぐもぐと食べてくれてるので、やっぱり美味しいのだろう。
よしよしとそーくんのさらさらの髪を撫でた。
「私、ママたちにも早く食べてほしいからもう行くね。そーくんも行こう?」
はいっと手を差し出すと、今度は素直に握ってくれた。うん、やっぱりお饅頭の力はすごいよ。
ぶんぶんと繋いだ手を揺らしながら、私たちは帰路についた。
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