なぜ、敵をみすみす逃がしたのかと問われると、回答に困るのだが、素直な心境を述べると、「追いたくなかった」が正しい。 かける言葉に困った。 トートが扉でワンクッションした後に外に出いき、ハードワンは取り残された。 部屋の中は散々だった。まず、煙が立ち込めて困る。燃やしたのだから当たり前だが、煙の逃げ場がない。換気扇などというものが機能しているとも思えない。灯台らしく光を発しているのが不思議なくらいだ。暫くこのまま立ち込めることを想うと気が滅入り、上階に移動することにした。 ハードワンは散らかったフロアを一瞥し、自分の荷物を集めて背負うと階段を上る。エルモをフロアの見張り役に残し、先ほどまで籠っていた機械室に荷物を置くと、小窓の柵に溜まっている雪がより積み上がっていることに気づく。まだまだ、吹雪は止まない。この中を進むトートは一体何を考えていたのだろうか。 「……考えても解らないな。放棄しよう」 トートの気持ちを考える。小学生の頃に読んだ教科書の小説文よりも読解が難しい。自分とは乖離した男なのだと思うことにして、彼の事を考えるのは止めた。考えることは山ほどある。外は大吹雪。ハードワンは再び窓の外を覗いた。もう何度も繰り返した行為だが、窓の外は相変わらず白い。 「?」 白いが、今度ばかりはそれだけでは無かった。 人影が、ある。それも三つ 「…………何だあれは」 目を凝らす。一つは見知った男だった。トートである。その前にいるのは、女が2人。服装の色合いからして、ストロベリーとココアだろうか?見て取れる情報を整理すると、ココアが人質に取られていると解る。トートはまさか、彼女の危機を察して灯台から出て行ったのか……? 「――――――あの男、……!」 ハードワンは息を呑んだ。生粋のマゾヒストでありながら、先見にも長ける男。又は、遠視の能力者……?やはり侮れない男だ。 あの男だけは潰さなくてはならない。 我がバニラ軍の勝利の為に、芽を摘んでおかなくては 「そっちに行くってお前さー、その女どうにかしてから言えっつの。」 件のトートは耳に小指を突っ込み、心底嫌そうな面でシューニャを眺めた。寒くて仕方がないのか、身震いした後にちらりと灯台を一瞥する。 「えっと、……レナさんも、一緒に」 「貴様ふざけるのも大概にしろ!」 シューニャの誘いなど聞く耳持たぬとばかり、レナは再びトートを怒鳴り付けた。委縮したシューニャがびくりと肩を震わせる。レナは畳みかけるようにシューニャの膝を蹴りつけ、雪の上に膝を付かせた。 「ふわ!?」 ざくりと雪を踏む感触がある。次にはレナに髪を掴まれて背を反る羽目になり、さらにナイフが首に押し当てられた。流石のトートも顔色を変える。 「仲間を見殺しにするとはゲスの極みの様な男だな。それとも私が本気でないとでも思っているのか?」 「うるせーなー、そんなに殺りたくて仕方がねぇのかよ、本当どいつもこいつも血の気が荒くてさぁー……、 あ!」 トートはやれやれと肩を竦めたところであることを思いついた。もしやの名案。口端を持ち上げて瞼を細め、にやりと笑った。 「アンタ、良い事教えてやるよ。あそこの灯台にはバニラの変態野郎がいて、そりゃぁ砦の魔王気取りでのさばってやがる。というわけで、アンタがシューニャを殺しても次に待ってるのはあそこの変態野郎なわけだ。一人で三人相手に殺り合おうなんてちょっと無謀じゃねーの?それより、ここでココアに靡いちゃう?」 吹雪の中、交錯する。 [mokuji] [しおりを挟む] |