緩衝地帯の中央まで進んだところで、天候が変わり始めていた。大陸の中でも北に位置し、常冬の地に育てば空模様一つとってもその顔色を伺うことは出来る。青空が曇天に変わり始めたところで、ハードワンは相棒の鷹を自分の肩に戻し、早々に身を引いた。もう少し高度がある山の麓に迎えば灯台があった。今は誰も使わないもので、あちこち錆びついているし綱の切れたリフトが転がっていたが、雨風しのぐには丁度いい。いつ吹雪に遭っても良いように、万が一に備えて場所を確保するように、……もう顔をあわせることもなくなった疎遠の兄の教えは、時を経て漸く今日、役に立つ。
 
 どの国にも、この地帯に足を踏み入れるには理由がある筈だ。この日、ハードワン率いる一班に与えられた任務は、敵陣の情報取集と、「探査機」を土に植えることだ。地雷の類ではなく、じわりじわりと自軍が掌握している地域を増やす為のもので、言わば鶯張りの様に通過したものを察して知らせる魔具である。すぐに雪が被さるこの地であれば敵陣が見つけるのは困難だろうが、陽の光を吸い上げる必要があるこの道具は一定の面積を晒す必要があり、扱う側としては何とも微妙な代物だった。まだまだ開発段階で、正直に言えば実験も兼ねている。もちろん、一定の検査はクリアしているけれど。暗殺部隊に所属している筈だが、こうしたチマチマした作業も多い。失敗が許されない政府公認の部署であるから何事も念密に働くのは分かるが、イマイチぱっとしない。
 石ころ大の道具を地に埋め、霜が降り始めている土を被せて回る単純極まりない任務も途中で切り上げ、ハードワンは灯台へと急いだ。自分を含め複数いた同班の連中は、魔具を埋める都合上、距離を離して一直線上に居た筈だが、吹雪いてくるにつれてその姿も見えなくなっていく。ライトに魔力を通してチカチカと光らせ、互いに合図を送り合って一定方向に進行していたが、一つ、また一つと消えていった。そしてとうとう孤独な旅路を強いられることとなると、ハードワンは舌打ちをした。吹雪いて飛べない鷹も自分のフードの中に引っ込み、首の付け根を温めるだけのマフラー状態だ。


 
 まぁいい。合流地点は決まっている。あの灯台が、目印だから。そこで待てば、合流できる筈だ

 



 ハードワンは気を取り直して灯台へと向かった。




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 雪を被りながらも、そう背の高くない灯台は相変わらず其処に佇んでいた。
 ここを見つけた時にすでに壊しておいた鍵を乱暴に捻り、錆びついて重たい扉を開けて中へと滑り込む。埃臭さも自分の背後から吹きすさぶ吹雪が吹き飛ばし、ハードワンは扉の向こうに滑り込んだ。風に押された重々しい扉が、バン!と音を立てて閉まる。
 猛吹雪の唸り声が響く。激しさを増す風の強さに建物の上部が軋み、やり過ごすだけの仮宿として持ちこたえてくれることを祈るばかりだった。ハードワンは背負っていた荷を降ろし、床に腰を下ろした。防寒具を着込んできたとはいえ、寒いことにはかわりない。フードを脱ぐと、首後ろで丸まっていた毛玉がキョロキョロと辺りを見回した。主人が許可するより前に、あっちに飛びこっちに飛びと好き勝手に散策を始める。

「エルモ、もう少し暖を取らせてくれよ。主人の死肉を貪るつもりじゃないだろう?」

 聞こえているのかいないのか、相棒の「エルモ」は一度だけ主人の方を振り向いたが、まるで聞こえなかったかのように部屋の奥へと飛び立っていった。

 ハードワンはため息を付いた。ここはどの辺りに位置している灯台なのだろうか。地図を広げて自分が動いた履歴を遡ればなんとかなるのかも知れないが、そもそもこんなものが此処ら一帯に存在しているなんて聞いたことがない。仲間たちはきちんと此処にたどり着くことが出来るのだろうか? 心配でならなかった。



 窓の外は一面の白。相変わらず人影は見つけられない。駄目元だとはわかってはいるが、ハードワンは再び魔具を取り出し、窓の外に向かって光を点滅させた。チカ、チカ、規則的に。


 どうか仲間の目に入りますように。


 





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次はそばさん!









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